望公太先生による自作プロット公開(2)~「最強喰いのダークヒーロー」ネタバレ&解説~

20160608dark_obishoeiお待たせしました、ここからは最新作「最強喰いのダークヒーロー」のプロット公開です!
発売ホヤホヤの新作を、著者と編集者でグルになってネタバレしまくるという、前代未聞のブログ記事がここに!
【ご注意】ダークヒーロー1巻の深刻なネタバレがありますので、まだお読みになっていない方は先に本編を通読してからこの下に進むことをおすすめします。
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※↑こちらからPDFをダウンロードできます。


発売したばかりの作品の重大なネタバレの嵐!
もちろん細かいところから大きなところまで、設計図通りにはなっていないところもあります。
でも、ここから実際の小説になると、プロットの何倍も何十倍も面白くなってるんです!
どこがどう変わっているか、どれくらい面白さがパワーアップしているのか、ぜひぜひただいま発売中の「最強喰いのダークヒーロー」第1巻でお確かめください!

そして、プロットの最後にも書いてありましたが、

ダーク表紙2提出用
なんと「最強喰いのダークヒーロー2」の刊行が早くも決定いたしました!刊行予定は2016年8月。

早い!! 2巻はすぐに出るんです。1巻で最悪のダーティ主人公・阿木双士郎の魅力にやられちゃった方は、長くはお待たせしませんのでどうか「最強喰いのダークヒーロー」を応援してください!!

プロットを先に読んじゃって、内容も気になるよ~!という方は

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こちらからすぐにお買い求めいただけます。
すでにツイッターなどでも絶賛コメント飛びかう大好評の作品です。バトルラノベを愛する全ての方に、まだこんな面白さがあったのか!という気持ちで読んでもらえる自信があります。悪党主人公の痛快カタルシス『最強喰いのダークヒーロー』をぜひよろしくお願いします!

◆関連リンク
『最強喰いのダークヒーロー』専門店特典のご案内


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望公太先生による自作プロット公開(1)~「異能バトルは日常系のなかで」はこう創った!~

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こんにちは! GA文庫のまいぞーです。
最新作「最強喰いのダークヒーロー」が絶賛発売中の望公太先生から新作発売を記念して、「自著のプロットをWEB公開してみたい」という驚きのご提案をいただきました!

プロットというのは、小説を作るための設計図のようなものです。どういうお話で、どんなキャラクターが出てきて、どういう風にイベントが展開していくかをまとめたもので、新企画を書く前にこれをもとにして内容を詰めていくことになります。

さて、新作発売を記念して「最強喰いのダークヒーロー」のプロットをこのGA文庫ブログで公開させていただけることになりました。

しかも、TVアニメにもなった代表作「異能バトルは日常系のなかで」のプロットも大サービスで公開OKとのこと! 旧作と最新作、ふたつを見比べれば作家・望公太の思考がよく分かる――かも!? 望先生自身による解説&ツッコミの加筆もありますので、そこにも注目してみてください。読むと驚くポイントとしては、約一名の人気キャラが、性別違ったりしてます(笑)

それでは前置きはこれくらいにして、まずは2012年6月発売(もう4年前!?)の「異能バトルは日常系のなかで」のプロットです。どうぞ!

 

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※↑こちらからPDFをダウンロードできます。


いや~、プロットの段階と実際の小説が全然違う!(笑)

まさか工藤さんが、プロットでは男子だったなんて!!

ほかにも色々違うところがあって、今読むと担当としても興味深いです。
それにしても、このプロットだけだと正直なにが面白いのか分からないですよね!本当ならこのプロットはまず通りません。というか、実際これは編集部の会議にかける前に私のほうで難色をしめして、
「これ、面白いのかもしれませんが、どこがセールスポイントになるのでしょう?と投げ返したんです。

それに対する望先生の回答がまた謎で

そんなの、二つ名のセンスに決まってるじゃないですか?
としか言わないんです。えー……? えー? いや、センスがかっけえ!のは分かるけど、それウリにはならないですし。え、なるの?そうなの?なるのか。そっか。

たぶん面白く書ける気がするんで、とりあえず書くだけ書かせてくださいというモードに突入した望先生を止められるものはなく、じゃあ、まあそういうことなら書いてもいいけど、読んでダメなら全ボツというお約束で執筆に入ってもらったという、ここで公開しちゃダメな経緯がありました。


なので、これから小説を書いてみたい小説家志望の方とか、プロのなかでもプロットが通過しにくくて奮闘中の方には、まったく参考にならないやり方です。くれぐれも真似をなさらないようにしましょう。

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せっかく真似をするなら、『最強喰いのダークヒーロー』のプロットが良いですよ! こちらはコンパクトな企画の中で面白さが分かりやすく伝わってくるし、編集部の会議も即座に通過した、お手本みたいなプロットです。

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気になる『最強喰いのダークヒーロー』のプロットは続きの記事で!


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望公太最新作「最強喰いのダークヒーロー」WEB小説風・試読版~最終回~

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 第一章 弱肉凶食③

 

 

「すり替えたって……ま、まさか――」

 

「ようやく気づいたか。ああ、そうだよ。今日の試合の前に――お前の魔弾をすり替えたのさ。中の触媒が劣化してて使い物にならねえもんとな」

 

 恥ずかしげもない、それどころかむしろ誇らしげな不正行為の告白。
 リザは目を見開いて驚愕した。怒りよりも、信じられないという気持ちが強かった。

 

「……お、おかしいと思ったのよ。試合のために発注した六発の魔弾が……全部不良品だったなんて」

 

 先の試合、リザは魔弾を一発も使わなかった。観客や実況はそのことを不思議がっていたが、なんのことはない、使いたくても使えなかっただけだ。
 試合中、何度引き金を引いても魔弾は反応しなかった。数多の敵を葬ってきたリザの雷撃は、発動することさえできなかったのだ。
 運がない。
 装備のチェックを怠った自分のミス。
 そう思ってどうにか自分を納得させようとしていたが――まさかそれが、対戦相手による卑劣な罠だったなんて。

 

「いったい、どうやって……」

 

「試合前によ、控室に係員が来なかったか? 『初戦に限り装備のチェックを行います』とか言って」

 

「き、来たわよ」

 

 相手の言うとおり、試合開始時間の少し前に帽子を目深に被った男がやってきた。
 この学園ではそれが慣例なのかと思い、リザは素直に自分の魔機剣を渡したが――

 

「そいつは俺だ」

 

「……は?」

 

「ククク。このみっともねえ髪も、こういうときには役に立つんだよな」

 

 そう言って、肩まである白髪をかき上げるようにする双士郎。
 彼の異様な白髪は――否が応でも人目に引く。
 有り体に言って、悪目立ちする。
 不自然に白い髪と、それを強調するような黒尽くめの服装。オセロの如きモノクロームの風貌は、見る者全てに不気味な印象を植え付ける。
 あまりにもわかりやすい、外見的特徴。
 しかし――裏を返せば。
 そのわかりやすい特徴が消失すれば、途端に彼だと認識しづらくなるということだ。
 人間が相手を識別するとき、頭髪は非常に重要な要素(ファクター)となる。髪型と髪色が変わっただけで、人の印象は大きく変わる。

 

「カツラと帽子被っただけの雑な変装だから、注意深く観察したら気づいただろうが……ククク、試合前で緊張していたお前は、相手が俺だと気づかぬまま、まんまと自分の得物を渡しちまったってわけさ。世間知らずのお嬢様を騙すのは楽でよかったぜ」

 

 新入生であるリザは、聖海学園の校則やルールには疎い。そのことも計算した上での作戦だったのだろう。用意周到で抜け目のない作戦だと言えるが――しかし、卑劣な罠であることに変わりはない。

 

「ふ、ふざけないでよ! こんなの……反則じゃない! こんなことが許されると思ってるの!? 恥を知りなさいっ!」

 

「クカカッ。騙される方が馬鹿なんだよ」

 

 睨みつけたリザを真っ向から睨み返し、獰猛な笑みを漏らす双士郎。

 

「……この件は、すぐに先生達に報告させてもらうわ。そうしたら、さっきの試合はあんたの反則負けになるはずよ」

 

「無駄だ。序列入りが出てくる本戦ならともかく、予選での物言いなんさ、教員連中も相手にしねえ。確たる証拠でもあれば別だろうが……俺は割と几帳面な方でな。証拠隠滅には細心の注意を払った。今更お前がどんだけ騒ごうが、結果は変わらねえ」

 

「……っ」

 

「そもそも、だ。この程度の罠にハマってる時点で話にならねえんだよ。上の方に行けば、エゲツなさはこんなもんじゃねえぜ」

 

「上の方……?」

 

「『祓魔祭』……『悪魔王』が討伐された烏島で、年に一度開催される『ソードウォウ』高校生世界大会。トッププロの集うEリーグと比べれば当然レベルは劣るが、『学生しか出場できない』『十代の若者が青春の全てを懸けて戦う』などの付加価値のおかげで、プロリーグと負けず劣らずの人気を誇り――結果、莫大な経済効果を生む。となれば……表には出せねえ陰謀や悪巧みが横行するのも必然だろう? 盗聴、盗撮、買収、八百長、談合、薬物混入、誹謗中傷の拡散、相手の武装への細工などは日常茶飯事。事故を装った闇討ちや、家族を人質に取った脅迫なんかもあったっけな」

 

「そ、そんなことがあるわけ……」

 

「表沙汰になった事例だけでゴマンとあるさ。表沙汰になってねえのを考えると……ククク、どれほどの名プレイヤーが、世間の闇に呑まれて消えたんだろうな?」

 

 リザは言葉を失ってしまう。
『祓魔祭』は、武の祭典。
 悪魔の消滅と人類の繁栄を祝う、年に一度の記念式典。
 世界中の学生騎士の憧れであり、聖地でもある。
 その輝かしい舞台の裏に――想像もつかぬほどに暗い世界があったなんて。

 

「お前が今まで汚え世界を見ずにこれたのは……実家であるクロス社の力だろう。大事に大事に箱入りで育てられたお嬢様は、華々しい世界しか見ることが許されず、そのせいでとんだ甘ちゃんに育っちまったってわけさ」

 

「だ、誰が甘ちゃんよっ」

 

「甘ちゃんだよ。今日の試合、お前の敗因は一重にお前自身の甘さだ」

 

「違うわよ! あんたが、汚い真似をしたから――」

 

「確かに俺は汚え策を用いた。けど、それを許したのはお前の甘さだ。一流の攻魔騎士(プレイヤー)ならば、試合前に他人に得物を渡すようなヘマはしねえ」

 

「……っ」

 

「それに、だ。本来なら――魔弾に細工にしたぐらいで、お前が俺ごときに負けるはずがねえんだよ。俺とお前では、そのくらいスペックでの差がある」

 

 双士郎は饒舌に続ける。

 

「お前は十年に一人の逸材と謳われるほどの女だ。攻魔騎士としての資質は極めて高く、バトルセンスも申し分なし。一方俺は、どんな無能でも十分は継続できると言われるフレアが、三十秒しか保たねえ最低の落ちこぼれ。俺みたいな雑魚は、お前なら魔弾なしで一蹴できる。違うか?」

 

 違わない、とリザは思った。

 

『ソードウォウ』において、魔弾は勝敗を分ける重要な要素ではあるが――圧倒的な実力差がある場合、魔弾の有無など意味をなくす。リザも中学生時代、明らかに実力が劣る者を相手にした場合は、魔弾なしで勝利したことも何度かあった。
 しかし、今日の試合では――

 

「中学時代、お前は自校でのホームゲームではほぼ十割の勝率を誇っていたが、これがアウェイとなるとやや勝率が落ちる。慣れない環境による不安や緊張が原因だろう。そういう状況でお前は――必ずと言っていいほど、試合始めに魔弾を消費した大技を発動し、リズムを作ろうとする」

 

「なっ……」

 

 リザは唖然とする。
 双士郎が口にしたそれは――彼女自身も気づいていないことだった。
 無意識のクセ、だったのだろう。

 

「高校での初めての公式試合……お前にとっちゃアウェイと同じだ。だからいつものように魔弾で派手な技を見せつけようとして、引き金に指をかける……」

 

 しかしその結果は――不発。

 

 対戦相手の、卑怯な工作のために。

 

「魔弾の不発にお前は大きく動揺する。俺はその隙を突いて、お前の左手の『的』を破壊した。その奇襲攻撃が成功した時点で――もう勝負は決したようなもんだったぜ」

 

 凶悪な笑みを深くしながら、双士郎は続ける。

 

「類まれなる実力と才能を持つお前は、劣勢や逆境での試合経験が極めて少ない。常に優位で戦うことに慣れ切っているせいで、たまに相手に先制されると大きく動揺し、失点を取り戻そうとムキになり、その結果驚くほど動きが悪くなる。中学三年間、公式記録に残っているお前の敗戦はたったの四回だが――その全てが、相手に先制された試合だ」

 

 魔弾は発動しない。
 先制は許してしまう。
 焦りと混乱の悪循環に陥ったリザは、一旦距離を取って体勢を立て直し、装備の不具合を確認しようとするが――

 

「そこでまた、強者特有の弱点が露見する。雷撃と剣技を主体とした攻撃一辺倒のスタイルで戦い続け、圧倒的火力と高機動で相手を封殺する戦法を取ってきたお前は、回避や撤退に慣れていない。バックステップで逃げる際、一瞬首を回して後方を確認するという致命的な傷(クセ)がある」

 

 リザが双士郎から目を切って背後を確認した瞬間、バックステップの蹴り足であった右足の『的』は、狙いすましたかのように破壊された。

 

「ククク。後はもう消化試合さ。『的』で二点以上差をつけられた状態からお前が挽回した試合は過去に一度ない。想定外のアクシデントの連続で、お前の混乱と焦燥はピークを迎える。そこで俺はダメ押しとばかりに、魔弾を用いてフレアを発動。早漏の俺は三十秒しか保たねえが、頭が真っ白になったお前の残り三つの『的』を壊すのには、二十秒とかからなかったぜ」

 

「……ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」

 

 リザは思わず声を上げてしまった。

 

「な、なんで……? なんでそんなに、私のことに詳しいのよ……?」

 

 すると双士郎は大きく息を吸い、そして一気に言葉を吐き出す。

 

「リザ・クロスフィールド。『ソードウォウ』関連用品の開発・販売で世界的なシェアを誇る大企業、クロスアヴァロン社の創始者の孫。父はクロス社の現代表取締役、ウーゼル・クロスフィールド。七月七日生まれ。身長一五九㎝。体重は非公開だが、おそらく五十前後。血液型はB型のRH(-)。適合者資質――カテゴリA、魔力タイプ――属性変化系。現在の使用魔機剣、天照社製『雷嵐の導き手ジルクーア』。昨年度の欧州∪15大会の覇者であり、そのときの功績が認められ、『メルクリウス』より『閃雷』の二つ名を授かる。好物はチョコレート系の菓子。嫌いなものはレモンティーと爬虫類。十歳で『ソードウォウ』を始め、以降目覚ましい活躍を見せる。欧州の大会では常に優勝争いに加わる実力者。可憐な見た目も相まって高い人気を誇るが、大変な負けず嫌いでも有名。十二歳のとき、とある大会の決勝で敗退した後、約三十分その場で泣き喚き続けたことがある。隠れた趣味は『日本のアニメ鑑賞』。日本語は主にアニメで覚えた。コスプレにも興味があり、様々なアニメの服を購入しては自宅で一人ファッションショウを開いている。人前に出ることも検討しているがなかなか踏ん切りがつかず、妥協案としてコスプレ衣装の上にコートを羽織って夜の街に――」

 

「わーわーわーっ!?」

 

 絶叫を上げるリザ。
 叫ばずにはいられなかったのだ。

 

「なんなの!? 本気でなんなの!? あんた、私のストーカーっ!?」

 

「ストーカー? クク、ナメんな――それ以上だよ」

 

 獰猛な笑みは、誇らしげに告げる。

 

「今日の試合のために、お前のことは調べ尽くした。昨年の欧州中学生覇者だけあって、探せばいくらでも情報は手に入ったよ。公式戦の記録や映像はもちろん、ファンが勝手に撮影した動画や画像、諸々の雑誌記事、あちこちのSNS……このご時世、ちょっとしたスキルさえあれば、地球の反対側のことだろうと全部筒抜けだ」

 

「な、なによ、それ……」

 

 徹底した敵情視察。
 その恐ろしいまでの執念と陰湿さに――リザはゾッとした。
 対戦相手の成績や映像を見て、そこから相手を分析して戦術を組み立てること自体は、極めて普通のことだ。
 だが――目の前の男のそれは、明らかに常軌を逸している。
 弱点を探すのではなく、その者の全てを掌握するような――

 

「……『ソードウォウ』は、お互いの積み上げてきた『強さ』を競い合う、神聖な格闘競技よ。それなのに……ストーカーまがいのことして、卑劣な小細工で相手を貶めて……あんた、そんなことして勝って、楽しいの?」

 

「楽しいねえ!」

 

 苦悶に満ちた声に対し、双士郎は全く間を置かずに即答した。
 唐突にソファから立ち上がり、リザへと顔を寄せて瞳を覗きこむようにする。
 ドス黒い欲望を秘めた双眸。

 

 闇を見つめたような。
 闇を煮詰めたような。

 

 あまりに暗く鋭い眼に、リザは危うく悲鳴を上げそうになった。
「お高く留まった天才様が、凡人以下の俺にハメられて潰される。最高だよ……最高以外のなんだっつーんだ。どっちが強いだの、どっちが弱いだの、くだらねえ勝負ごっこに夢中になってる馬鹿どもを出し抜いてボコボコに凹ませてやることが、俺みてえな無能にとっちゃこの上ない愉悦なんだよ……ククククク、クカカカカカカカーッ!」

 

 タガが外れたような哄笑。
 なにもかもを見下すようでありながら、端々に痛烈な自虐が滲む。
 高らかに、しかしどこか自暴自棄に笑う男に、リザは心から恐怖した。

 

(なんなのよ、この男……)

 

 フェアプレイ精神など欠片もなく、向上心など微塵もなく、なりふり構わず、手段を選ばず、恐ろしいまでの執着と執念で勝利だけをもぎ取る。
『ソードウォウ』という競技を愛し、ひたむきに鍛錬を積んできたリザにとっては――目の前の男は、完全に理解の外にいる生き物だった。

 

「……この早漏野郎。あんたは、最低の男よ」

 

「ククク。そりゃどうも。だがお前は、そんな最低の男に負けたわけだ。しかも完全試合で。脆いもんだな、お前の積み上げてきた『強さ』っつーのはよ」

 

「う、うるさいっ」

 

「聖海学園の校内選抜戦では、予選で一敗でもした奴が本戦に出ることはまずない。全勝者だけが本戦に出場するシステムだ。つまり、お前の夏はもう終わったってわけだ」

 

 そこまで言ったところで、双士郎は顔を玄関の方へと向ける。
 視線の先にあるのは、捨て置かれていたリザの魔機剣――天照社製『雷嵐の導き手・ジルクーア』。

 

「お前がなんのために留学してきたのかは知らねえが……ま、大手メーカーであるクロス社の令嬢が、当て付けみてえにライバル企業の装備を使ってるとこを見る限り、大方の予想は着くけどな」

 

「っ!?」

 

「あれだろ? レールに乗った人生はまっぴらごめんだー、的なやつ? ククク、羨ましいねえ。一度でいいから、そういう贅沢な悩みを抱えた人生を送ってみたいもんだ」

 

「……あんたに、私のなにがわかるのよ」

 

 リザの声は怒りで震えていた。
 両の拳を、強く強く握り締める。

 

「羨ましい、ですって……うちの家族のこと聞いたら、二度とそんな口は聞けなくなるわよ。私の父はね――」

 

「そうか。大変だったな」

 

「そう、大変だっだのよ――って話を聞きなさいよ!?」

 

 あまりにも適当な返しに、思わずノリツッコミをしてしまうリザだった。

 

「生憎、他人の不幸自慢や自分語りには興味がなくてな。お前の戦う理由なんざどうでもいい。俺にとって重要なのは――お前に戦う理由があるかどうかだけだ」

 

「ど、どういう意味よ……」

 

「言っただろ? 俺は、お前に糸を垂らしに来たんだよ。イギリスの中高一貫校から、面倒くせえ手続きしてわざわざこの学園に来たんだ。なにかしら、ここで戦わなければならない事情があんだろ? だったら――個人戦の他に、チーム戦っつー可能性も、まだ残ってるんじゃねえのか?」

 

『祓魔祭』には――二種類の戦いがある。
 一対一で争う個人戦。
 そしてもう一つは、四対四のチーム戦だ。

 

(チーム戦……)

 

 考えもしないことだった。
 チーム戦では言うまでもなく、チームワークが物を言う。入学してまだ日が浅いリザには、背中を預けられるほどに信頼できる仲間はいないし、仮にそんな仲間を見つけられたとしても、リザの戦闘能力に合わせられる者がいるとは思えない。実力のある上級生の大半は、昨年からチームを作り、この夏に向けて連携を磨いているからだ。
 そのためチーム戦のことは最初から考えもせず、個人戦一本に絞っていたのだが――

 

「まさか……あんたと一緒のチームになれっていうの?」

 

「おう」

 

「冗談じゃないわよ! 誰があんたみたいな奴と組むもんですか!」

 

「ククク。いいのかよ? 相手や手段を選んでる余裕が、今のお前にあるのか?」

 

 リザは言葉に詰まり、歯を食いしばる。そんな彼女と楽しげに眺めながら、双士郎は一歩前に出た。
 大きく手を広げる。
 烏が翼を広げるように、あるいは悪魔が翼を広げるように。
「黙って俺に従え、リザ・クロスフィールド。そうすりゃ、お前を『祓魔祭』の頂点へと連れてってやる」
 白髪の下、妖しい輝きを秘めた双眸がリザを見下ろす。
 こちらの全てを見透かすような眼光は言いようのない圧力を伴い、息苦しさを感じてしまう。
 リザの望みを断ち切り、絶望の淵へと追いやった男が、今度は望みを繋ごうとしている。
 掌を返して、手を差し伸べようとしている。

 

 状況が全く理解できない。

 

 理不尽な流れに飲み込まれ、脱出不能の渦の中に閉じ込められたような。

 

 阿木双士郎という男に、利用され、翻弄される――

 

「……なにが……なにが目的なのよ、あんた?」

 

 絞り出すように問うたリザに、双士郎は嗤う。

 

「俺は今年の『祓魔祭』で、個人戦とチーム戦の両方で優勝を掻っ攫い、完全制覇を成し遂げる。そして――」

 

 双士郎は言う。

 

「――このクソみてえな世界を、思いっきり虚仮にしてやる」

 

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最強喰いのダークヒーローは、ただいま絶賛発売中! 第2章以降の物語……双士郎のダーティな快進撃は、ぜひ本編でお楽しみください。


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望公太最新作「最強喰いのダークヒーロー」WEB小説風・試読版~第3回~(全4回)

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 第一章 弱肉凶食②

 

 

 永い永い戦いがあった。

 

 攻魔騎士と悪魔の、血で血を洗う凄惨な戦争。

 

『時の悪魔』
『東からの災厄(フロムイースト)』
 あるいは、ただ単に『悪魔』

 

 太平洋の中心を縦断する日付変更線――時を分かつ線より西に向けて現れる異形の化け物達は、そんな風に称された。
 時を隔てる線より召喚される悪魔達は、世界各地に破壊と混乱をもたらし、理解不能の災厄として人々を恐れさせた。

 

 そんな悪魔達から人類を守るために戦ったのが――攻魔騎士と呼ばれる者達。

 

 攻魔騎士――全人口の一割と言われる適合者の中で、悪魔に対抗できるだけの戦闘技能を身につけた者の総称である。

 

 東方より訪れる災厄に対抗するために、世界各国の政府や企業は一丸となって手を組んだ。その結果生まれたのが、『メルクリウス』という、攻魔騎士を管理・育成するための国際機関である。
『メルクリウス』に属する攻魔騎士達は、悪魔から世界を守るために命懸けで戦い続けた。人類と悪魔の闘争は熾烈を極め、多くの命が散ることとなったが――

 

 今から五十年前。
 戦争は――人間側の勝利で幕を閉じた。

 

 太平洋に浮かぶ烏島という名の無人島で『悪魔王(サタン)』を滅ぼしたことにより、全ての悪魔が灰となって消滅し、以来、日付変更線より悪魔が現れることはなくなった。
 もう、日の昇る方角からの脅威の怯える必要はない。
 誰もが待ち望んだ、平和な時代が訪れた。

 

 戦後五十年、『メルクリウス』は様々な戦後復興活動に取り組んだが――
 その中で最たる成果を上げたものが、『ソードウォウ』である。

 

 攻魔騎士同士が武器を手に戦い合うバトルエンターテイメント――『ソードウォウ』は、今や世界で最も多くのファン人口を誇る格闘競技となった。Eリーグのトッププロともなれば、年収ウン十億という選手もザラに存在する。

 

 年に一度、烏島で開かれる高校生(アンダー18)大会の最高峰――『祓魔祭』も、トップリーグの試合に負けず劣らずと人気と観客動員数を誇り、多くの学生がその舞台を目指して日夜鍛錬に励んでいる。

 

 リザ・クロスフィールドも、その一人である。
 いや、一人だった、というべきか。

 

『一年で結果を出せなかったら――一年時に「祓魔祭」に出場できなかったら、もう二度と家の決定には逆らわない』

 

 そう豪語して実家を飛び出して来た彼女にとっては、今年が最初で最後のチャンスであった。
 だが、彼女の夢と野望は、あまりにも早い段階で潰えてしまった――

 

「…………」
 気がつけばリザは、女子寮の自室に戻ってきていた。
 どうやって帰ってきたのかほとんど覚えていない。
 放送部や野次馬が、敗北について根堀り葉掘り訪ねてきた気もするが、全てうろ覚えであった。
 後ろ手でドアを締め、手に持っていた魔機剣はその辺に立てかける。
 控え室にも寄らずに来たため、格好はGPスーツのままだった。適当に脱ぎ捨てて全裸となり、フラフラと安定しない足取りで浴室へと向かう。
 給湯温度を高めに設定し、熱いシャワーを頭から浴びて試合の汗を流した。
 と言っても、大した汗はかいていないが。

 

「……っ」

 

 最低の試合だった、と思う。
 全力を出したわけでも、死力を尽くしたわけでもない。歯車が噛み合わぬまま、エンジンに火が入らぬまま、いつの間にか試合が終わっていた。

 

「……なんで」

 

 滴る水滴と共に、唇から無念が零れていく。

 

「なんで、どうして……こんなはずじゃ……なんで……?」

 

 リザは深い混乱から未だに立ち直れずにいた。頭を埋め尽くすのは、自分の全てを否定したような嘲笑だけ――

 

「阿木、双士郎……なんなのよ……なんなのよっ、あいつは~~っ!」

 

 己を下した男の名を叫び、ダン、とシャワールームの壁を叩く。

 

 油断してなかった、と言えば嘘になるだろう。

 

 過去の実績や資質検査の結果を見る限り、なにもかもが最低ランクの男だった。
 嫌に目を引く不気味な白髪以外、特徴も特筆すべき点もない。
 実際に相対してみても、強者特有のオーラなどは全く感じなかった。

 

 しかしリザは、そのどう見ても強そうに見えない男に――完全試合を喰らった。

 

 敗北。
 それも、校内選抜戦、の予選会、の初戦敗退。
 結果だけ見れば――最低以外のなにものでもない。
 なに一つとして実績を残せぬまま、リザの一年度の夏は終わった。

 

「…………」

 

 絶望的な状況にもかかわらず、どうにも絶望しきれない。消化不良な気持ちのまま、リザはシャワーを止めて浴室から出た。
 バスタオルを手にとって体を拭いていく。
 顔を拭き、髪を拭き、全身を拭き、最後に湿気が溜まりやすい乳房の下の部分を念入りに拭いたところで――着替えを忘れたことに気づいた。

 

「あー……。えっと、カーテンは閉めてたわよね」

 

 バスタオルで体の前だけを隠すようにして、リザは浴室からリビングに向かう。
 水気を含んだ生地が肌に張り付き、肉付きのいい体が強調される。
 ある意味裸よりも卑猥な絵面となってしまったが、同居人もいない一人暮らしの女子寮の自室ならば、なんの問題はない――はずだったのだが。

 

「よォ」

 

「……へ?」

 

 いるはずのない者が、部屋にいた。

 

 我が物顔でリビングのソファでふんぞり返っているのは――阿木双士郎。
 ほんの数十分前に、リザから全てを奪い去った男。
 GPスーツから着替えてはいるが、似たような黒尽くめの私服。日本人としての最低限のマナーか、靴はきちんと脱いでいる。
 唐突過ぎる来訪者――いや侵入者に、リザが硬直したことは言うまでもない。

 

「また会ったな、馬鹿おっぱい」

 

 バスタオルを纏っただけのリザの裸体を目撃しておきながら、双士郎は狼狽えることもなく、不敵な笑みを漏らすだけだった。

 

「……ひっ。い、いやぁ――ぶっ!」

 

 真っ白になっていた頭がようやく現状を理解し、侵入者に対する恐怖と羞恥から悲鳴をあげそうになるが――その寸前、顔面にクッションを投げつけられた。

 

「騒ぐな。みっともねえ」

 

「……くっ! な、なにやってんのよ、あんた!?」

 

「なにって、不法侵入?」

 

 悪びれもしない双士郎。
 あまりのふてぶてしさに、リザは頭が沸騰しそうになる。

 

「心配しなくても、お前の貞操が目的じゃねえよ。そのだらしねえ体が目的なら、古典ホラーよろしくシャワー中に襲いかかってたさ」

 

「だ、だらしない!? 私の体が……だらしないですって!?」

 

「体脂肪率20パー弱ってとこか? デブじゃねえが、アスリートにしちゃ少々肉付きがいい方だな」

 

「じ、自慢じゃないけどねっ! け、けっこういい体してるはずよ、私は! 女友達から『脱いでも脱がなくてもすごい』って褒められたこともあるし……グラビアのオファーだって、全部断ってるけど、何十回もあったんだからっ!」

 

「どうでもいいけどよ、あんまり熱弁振るってると、いろいろ見えちまうぜ?」

 

「~~~~っ!」

 

「ククク。まあ、そこまでご自慢の裸体を見せつけてえっつーなら、お望み通りたっぷりと堪能してやっても――ぐあっ!」

 

 ヘラヘラと笑う男の顔に向けて、リザは先ほど投げつけられたクッションを思い切り投げ返した。

 

「変態っ! 変態っ! この……変態の早漏野郎っ!」

 

 続けて、置き時計、ぬいぐるみ、雑誌と、近くにあったものを手当たり次第に投げつける。
 双士郎が仰け反った一瞬の隙を見て、リビングを駆け足で横切り、着替えの入っているタンスの元へと向かう。
 同年代の男の前を、バスタオル一丁で、尻丸出しで駆け抜ける。
 羞恥心で顔から火が出そうになるが、リザは歯を食いしばって恥辱に耐えた。
 下着と部屋着を取り出し、猛スピードで脱衣所へと戻る。「おーい、ブラとパンツが揃ってなかったけどそれでいいのかー?」という冷やかしを無視して、大急ぎで着替えを済ます。
 衣服を身につけ、現代人としての尊厳と慎ましさを取り戻したリザは、バン、と勢いよく脱衣所のドアを開いた。ズンズンと大股で双士郎へと詰め寄り、

 

「なんなのよ、あんたは!?」

 

 と、烈火の勢いで叫んだ。顔は真っ赤で息は荒い。
 青い瞳では、羞恥と怒りが炎となって燃え盛っていた。

 

「なんで私の部屋にいるの!? どっから這入ってきたのよ!」

 

「玄関からだよ」

 

「げ、玄関……」

 

「敗戦のショック引きずってるのはわかるけどよ、シャワー浴びんなら鍵ぐらいはかけときな。不用心にも程があるぜ」

 

「……っ。だ、だからって……勝手に入ってきていいことにはならないでしょ。よくも、よくも私を辱めたわね……! 絶対に許さないんだから!」

 

「ククク。そうカッカすんなよ。他の奴に見られたくなかったから忍び込ませてもらったが、俺の目的は覗きでも下着ドロでもねえ。ちょっとお前に話があっただけだ」

 

「話? ふんっ。変態と話すことなんてないわよ!」

 

「いいのか? そうやって意固地になってると――地獄から抜け出すための糸を取り逃がすことになるぜ?」

 

 相手の言葉に耳を貸すつもりはなかった。
 問答無用で部屋から締め出そうと思っていたが――しかし、双士郎がポケットから取り出したものを見て、リザの表情が変わる。

 

「とりあえず、こいつは返しとくぜ」

 

 そう言ってテーブルにバラバラと転がしたのは――六発の魔弾だった。
 魔弾。
 形状やサイズは普通の弾丸と変わらないそれは、魔力増幅装置である。
 悪魔に対抗するために生み出された兵器であり、人類の叡智の結晶。
 適合者は各々の魔力性質に応じて様々な超常現象を引き起こすことができるが、魔機剣に装填した魔弾を消費することで、その威力は、何十倍にも跳ね上がる。
『ソードウォウ』の場合、高校生の大会では一試合六発までとレギュレーションが定まっており、魔弾を用いた大技をどのタイミングで使うか、が重要な戦略となる。

 

「これ、私が使ってる魔弾と同じ……え? あれ? でも、返すって……」

 

 困惑するリザに対し、双士郎はこれみよがしにため息を吐いた。

 

「察しが悪いにも程があんだろ。今までどんだけ平和な世界で生きて来たんだ?」
「う、うるさいわねっ。いいから、ちゃんと説明しなさいよ。どうしてあんたが私の魔弾を持ってるの?」

 

「――すり替えたからだよ」

 

 双士郎は言った。
 恥じることもなく、堂々と。

 

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望公太最新作「最強喰いのダークヒーロー」WEB小説風・試読版~第2回~(全4回)

20160608dark_obishoei

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 第一章 弱肉凶食①
『ソードウォウ』高校生大会の個人戦では、競技時間は十五分(ワンクオーター)と定められている。
 時間内に互いの『的』を破壊し合い、試合終了の時点でより多くの得点を得た方が勝者となる。両手両足の『的』は一点で、胸の『的』は五点。同点の場合はサドンデスとなり、それでも決着が着かなければ判定勝負となる。

 

 リザ・クロスフィールドのデビュー戦も、当然十五分の制限時間で行われたが――結果から言ってしまえば、試合は十分も経たないうちにケリが着いた。

 

『パ、完全試合(パーフェクトゲーム)……』

 

 震えた実況の声が、闘技場に響き渡る。
 観客席上部にあるスコアボードは、選手の『的』とセンサーで繋がっており、両者の得点状況が随時表示される。五芒星に似た図形の一つ一つが『的』と連動しており、『的』が破壊されると灯りが消える仕組みだ。

 

 現在スコアボードでは、片方の選手の灯りが五つ全て消え、そしてもう片方の選手の灯りは五つ全て灯ったままだった。

 

 それが意味することは――

 

『なんと、なんと、勝者は……阿木双士郎選手。自分の「的」を一つも破壊させずに、クロスフィールド選手の五つの「的」を全て破壊……。いわゆる、完全試合です……。しかし、これはいったい……』

 

『な、なんて言えばいいのかな……』

 

 闘技場は静まり返っていた。
 思いもよらぬ結末に、まるで予想していなかった大番狂わせに、誰一人としてまともな感想を口にすることができない。
 試合を見た全ての者が深い混乱に陥っていた。
 しかし混乱の度合いで言えば――記念すべきデビュー戦で完全試合を喰らってしまったスーパールーキーが陥った混乱は、観客達の比ではなかった。

 

(負け、た……?)

 

 結果だけ見れば、完全敗北以外のなにものでもない。
 しかしリザは自分の敗北を、まるで受けいられずにいた。

 

(負け……? え……? なにこれ……? こんなことって……)

 

 わからない。

 

 なにがなんだかわからない。

 

 自分がなぜ敗北したのか、全くわからない。 

 

 未熟さと傲慢さ故に敗北を受け入れられないわけではなく――戦場でなにが起こったのか全くわからなかったのだ。
 気がついたら負けていた。
 負けた、という実感がまるでない。悔しさも惨めさも湧いてこない。
 試合終了のブザーも、スコアボードに表示された対戦結果も、なにもかもが他人事のように感じる。 

 

(おかしいわよ、こんなの……)

 

 もしも――対戦相手の男が実はとんでもない強者で、今までずっと隠していた実力を発揮して自分を圧倒した、という話ならばまだ納得できる。
 だが、そうではない。
 相手の男は――決して強くはなかった。
 彼が強かったわけではなく、リザが――

 

『いやー……なんとうか、奇妙な試合でしたね……。パッとしないというか、見栄えしないというか。阿木選手は、フレアのために一発魔弾を使っただけで、クロスフィールド選手に至っては、魔弾を一発も消費していません。純粋な体術だけの決着となったわけですが、その体術にしても……』

 

『うーん……リザちゃんも、初戦だから緊張してたのかな? 明らかに動きが悪かったね。とてもじゃないけど、欧州の中学生覇者とは思えない』

 

 そう。相手が強かったわけではない。

 

 リザが――弱かったのだ。

 

 普段通りの動きを一切できず、困惑と動揺が解消せぬうちに五つの『的』を破壊されてしまった。欧州の∪15の大会で優勝を手にした彼女の実力は――国際攻魔騎士管理機関『メルクリウス』より『閃雷』の二つ名を授かった彼女の真価は、なに一つ発揮することができなかった。
 まるで、悪い夢でも見ていたような――

 

「……え?」

 

 ステージに跪いて顔を伏せていた彼女は、ふと顔を上げる。
 自分に勝利した阿木双士郎が、すぐそばまでやって来ていた。白濁した白髪の隙間から覗く眼が、リザを見下ろす。

 

「な、なによ……?」

 

 警戒と敵愾心を露わにしたリザを無視して――双士郎は片手で顔を覆った。
 やがて、彼の体が徐々に震え始める。

 

「……ク、クク、ククク」

 

 顔を覆う掌から、音が漏れる。
 ずっと沈黙を保っていた口から零れたのは――笑い、だった。
「ククク……ククッ、クカカカカカカカカカカカカカカカカカカカァ――ッ!」
 哄笑。

 

 

 

 静まり返る闘技場の中心で、彼は一人、声を上げて笑う。
 大口を開け、犬歯を剥き出しにして、腹の底からゲラゲラと大笑いする。
 この世の全てを見下し、蔑み、嘲笑するかのように――

 

「クカカカカカカッ、ククク……どうだよ、リザ・クロスフィールド。早漏だって馬鹿にしてた男にイカされちまった気分はよォ?」

 

 ようやく笑いを収めたところで、双士郎は酷く愉快そうに言葉を紡いでいく。

 

「これが十年に一人の天才と謳われた『閃雷の騎士』かよ? はっ。大したことねえなあ。期待外れもいいとこだ。強い弱い以前に、勝負ってもんを根本的にわかっちゃいねえ。ただの雑魚じゃねえか」

 

「なっ!?」

 

 失礼極まりない言葉の連続に、リザはキッと相手を睨みつけた。

 

「ざ、雑魚ですって!? こ、この私が……」

 

「ああ、雑魚さ。雑魚で不服なら……まあ、カモってとこかな? 簡単に勝ち星を提供してくれる、実に美味しいカモだ。頭の方も鳥並みにスカスカみてえだしな。クク。栄養全部でけえ乳に行ってんじゃねえのか?」

 

「っ!?」

 

 品のない罵倒に、カァ、と頬が熱くなる。リザは跳ねるように立ち上がり、相手へと詰め寄った。

 

「ふ、ふざけんじゃないわよ! もう一回、もう一回勝負よ! こんなの……あり得ない! この私が、あんたみたいな早漏に負けるはずないのよ! 絶対なにかの間違いだわ……ちゃんと本気で戦えば、今度は――」

 

「もう一回? 今度? クク。どこまで甘ちゃんなんだかな、このお嬢様は? 生きるか死ぬか、勝つか負けるか……真剣勝負の世界じゃ、泣きの一回は存在しねえんだよ。勝負をナメるのも大概にしな」

 

「だ、だって――」

 

「いつまで恥を重ねる気だよ、馬鹿おっぱい。これ以上口を開けば開くだけ、自分が言い訳しかできねえ無能だって周囲にアピールするようなもんだぜ?」

 

 リザは口を噤み、ギリギリと歯を食いしばった。
 なにも言い返せなくなった彼女を見て、双士郎はさらに笑みを深くする。

 

「クカカカカッ! 無様だねえ、リザ・クロスフィールド。てめえもいろいろと事情抱えて戦ってたんだろうが、この一回の敗北で全てがパーだ」

 

 勝者は敗者を、ひたすらに罵倒し続けた。

 

「お前は強い。俺よりもはるかに強い。だが――今日勝ったのは俺だ」

 

 そんな勝利宣言を述べた後、双士郎は再び、堪え切れんとばかりに笑い出す。闘技場全てに響き渡るような大音量の嘲笑を撒き散らしながら、彼は姿を消していった。

 

 残されたリザは、悪魔のように嗤う男の背を、呆然と眺めることしかできなかった。

 

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