受賞者インタビュー
第十六回 10月15日発売「ノブレス・オブリージュ ~茅森楠葉の覚悟~」 著者:小松遊木さん インタビュー
――まず小説を書き始めたきっかけをお聞かせ願えますか?
決定的なきっかけが何だったかは、はっきりと思い出すことができませんが、いくつかの小説を読んで「これくらいなら自分でも書けるんじゃないか」と短絡的に思ってしまったことと、またいくつかの小説を読んで「自分もこんな小説を書いてみたい」と憧れを抱いたこと、そのふたつの積み重ねによるものだと思います。
ただ動機としては、やはり後者のほうが大きいですね。
面白い小説を読むと、おのずと創作意欲もわいてくるものですから、今でもモチベーションが下がったときなどは、まず好きな小説を読むようにしています。個人的には、とくにジェフリー・ディーヴァーやロバート・ゴダードなどを読んだあとなどは――もっとも直後は「うはぁ……」と余韻に浸るため息しか出ないものですが――、しばらくして「よし!」という気になります。
――そうして「よし!」という気になって書いた本作には、どんなキャタクターが出てくるのでしょう?
「ノブレス・オブリージュ ~茅森楠葉の覚悟~」は、真面目で健気なお嬢さまの茅森楠葉さんと、ひたすら空回りする赤い眼鏡がトレードマークの鍛冶本亜未さんという表紙の二人に、カラフルパンツの金城錫音さんを合わせた一年生三人組。
加えて、軽やかなアイドル的美少女の桐島七海さま、正統派ポニーテール美少女の鏡沙矢香さま、そしてメルヘンチックでふわんふわんの成瀬春水さまという三人の二年生。
さらに、美人の度が過ぎるゆえにある意味恐怖な、大名家のお姫さまである土橋小百里さまと、眠れる冥界の魔王こと南條陽女さまの三年生コンビ。
あと楠葉さんに仕える無表情なメイド剣士の藤崎小冬さんも含めると、主要メンバーだけで九人です。
――多いですね。
そうですか?
確かに登場キャラクターとしては、ひょっとするとちょっと多いほうなのかもしれませんが(しかも主要キャラ九人全員が女の子)、とはいっても、次回作として予定している女の子だらけのアイドル忠臣蔵「CSG47(シー・エス・ジー・フォーティー・セブン)」に比べれば、五分の一以下。それに比べれば、全然多くありませんよ。
――もう次回作ですか?
…………。
――…………。
もっとも、はじめから九人だったわけではなく、これには深いわけがあるのです。
――(スルーした!?) ……ええ、はい。
もともとの発端は「週刊少年ジャンプ」の前のほうに載っているいくつかのマンガを見て、「現代人キャラ+日本刀はウケる、だったら時代劇のフォーマットをそのまま現代という舞台に落としこんでみたらどうか」と思ったわけです。
普通に車が走っていたり、電車が走っていたり、人々は携帯電話を持っていたりする、そんな現代的な社会なのに、腰に剣を差している人がいて街なかで辻斬りが起こったりする。そういう世界を舞台にして、はじめは「水戸黄門」をやろうとしました。
――「水戸黄門」というと、主人公はひょっとしてお爺さん?
いえいえ、十代の女の子です。萌えありきです。
家出をしてしまったわがままプリンセス七海さまに、健気に七海さまを守ろうとする忠臣の楠葉さん、そしてそんな楠葉さんを敬愛する小冬さんという三人が、軽自動車で諸国を漫遊するという珍道中記ですね。
――「ノブレス・オブリージュ」も主人公、というよりも、ほとんどの登場人物が女の子ですが、そのあたりは何か理由か、こだわりがあるのでしょうか?
主人公もそうですが、登場人物たちを女剣士にしたのは、池波正太郎先生の「剣客商売」の佐々木三冬や、鳥羽亮先生の「剣客春秋」の千坂里美が、とても凛としていて、かっこよく思えたからです。自分もかっこいい女剣士を書いてみたいなぁ……、と。
また、そうですね。正義感を表すのにも、少年剣士よりも少女剣士のほうが表現しやすいかなと思ったということもありますね。
――どういうことでしょうか?
男性の剣術遣いというと、やっぱりまっすぐに正義感を示す人よりも、「無限の住人」の万次さんや、「バガボンド」の武蔵のようなちょっと悪っぽい感じのほうがかっこいいですからね。正義の味方としてのまっすぐな少年剣士はキャラとしてちょっと弱いと思ったんです。
そもそも水戸のご老公や松平健さんが絶対的な正義の味方でありえるのは、彼らが人として経験豊富な老人であったり、将軍という絶対権力の持ち主だからで、少年の剣術遣いが「助さん格さん、やっておしまいなさい」とか「成敗!」とか言ったところで、偽善者とまでは言わないまでも、ちょっと嘘臭い。胡散臭い感じがしてしまう。
――松平健さんは八代将軍徳川吉宗を演じている役者で、松平健さん本人が正義の味方というわけではありませんけれど?
マツケンは、正義の味方ですよ。(キッパリ)
――あー、はいはい。……では、女剣士の話を続けてください。
その点、女剣士はいいんですね。そういう胡散臭さがない。
というのは、女剣士というのは男性の多い剣術界で認められようとしている存在ですから、前述の三冬さんや里美さんのように、男性よりも真面目に剣術に取り組んでいるんです。そういったキャラ造形が普通にすんなりと受け入れられますから、正義感が溢れていても押し付けがましくない。
だから、たとえば七海さまが「楠葉さん小冬さん、やっておしまいなさい」と言ってもかっこいいんですね。
――なるほど。
それでなくとも「美少女は正しい」で「かわいいは正義」ですよ。そのことに論理なんて必要ありません。
――暴論ですね。
暴論です。
たとえば、あるセーラー服の美少女が「つべこべ言わない! あたしが正しいって言ったら、何だって正しいの! わたしが正義なのよ!」と小さな胸を張って言ったとしましょう。
それに対して「どうしてきみが正しいのか、まったく論理的ではないな。僕にわかるように証明してみたまえ」なんて答えたりしたら、そりゃあ大顰蹙です。
暴論ですけど「かわいいは正義」はすでに論理を超えたところで正しいんです。
……少し話がそれました。
――思い切りそれてます。
ただ現代風「水戸黄門」には、何かやりにくさを感じたんですね。すぐに没にして今度はその三人を賞金稼ぎにしてしまおうと思い立ちました。
賞金稼ぎのチームにするに当たって、やはりリーダーたる司令官役が欲しくなった。そこで小百里さまの登場。そして、ばたばたするだけの見習いに亜未さんを加え、これで五人になりました。
ただ、それだと設定があまりにも「爆裂天使」のようになりすぎてしまった。またその設定で書いているうちに、ヴィジュアル的にはやっぱり「制服を着た女子高校生+日本刀」のほうが魅力的じゃないかと思ったんですね。
学園を舞台にして、凛とした女剣士たちの「らき☆すた」のような話にすれば、面白い物語になるのではないかと思い、それであれやこれやとストーリー考えているうちに、いつの間にか主要キャラが九人になっていた――ということです。
――なるほど。では実際に書き上げてみて、どうでしたか?
ほっとしています。
――と、いいますと?
書いている途中から、本当に「ノブレス・オブリージュ」のような世界があって、その世界で楠葉さんや亜未さんたちが、本当に息づいているように思えてきたからです。
放課後になったら旧剣道場のお座敷に彼女らが集まって、お茶を飲みながらわいわいやっているような気がしてならなくなってきた。
だから、書き上げられなかったら、彼女たちになんて言って謝ったらいいのかわからない。
――キャラたちに謝らずにすんで、よかったですね。小百里さまと陽女さまの三年生の二人は怒ったら怖そうですもんね。
本当に怒って怖いのは、意外と沙矢香さまかもしれませんが。
――ええっ?(笑) では、いよいよ書き上げることができてよかったではないですか。
でもその反面、書き上げられるだろうとは思ってたんですよ。
――どういうことでしょう?
途中からは物語を創造しているというよりは、その世界で生きている彼女たちの様子を書きとめているだけの作業になってましたから。
創っているというよりは、文字に起こしているだけというような感じです。
――それは作品を客観的に見ている、と、そういうふうにも聞こえますが?
どうでしょう……、でもニュアンスは違いますが、そうなのかもしれません。
というのは、この作品が刊行となって嬉しいのには違いないのですが、その嬉しさっていうのが、今まで自分ひとりの物語でしかなかった「ノブレス・オブリージュ」が読者の皆さまと共有できるようになったという嬉しさなんですね。
作者というよりは、一読者的な感覚で、もっというと一ファンとして嬉しい。
――ずいぶんと作品を愛していらっしゃるようですね。
あの子たちは、本気でいい子たちですから。そのことは本当に保証します。そして、いちばんはじめに「ノブレス・オブリージュ」を読んだ読者としてもオススメします。
なにしろ先日著者校でふたたび読み直していたんですが、読みふけってしまってチェックするのを忘れていたくらいですから(苦笑)。
――ええ。彼女たちがいい子だというのはよくわかります。それぞれに個性的ですが、それぞれに魅力があって、いい子たちですよね。
しかも主要キャラだけじゃないですからね。脇役にもいい味を出している子がいます。
――誰でしょうか?
たとえば、亜未さんのことをストーカーのようにつきまとっているサブキャラ――とんがり眼鏡のお嬢さま鍵井利乃さんなんかでも、亜未さんからはとにかく「面倒くさい」とか「うざい」とか言われているんですけれど、基本的にはいいやつなんです。
――それは、わかります。確かにああいうふうに暴走されると面倒くさいですけれど、鍵井さんに悪意がないのがわかりますから、嫌いにはなれませんよね。
そうなんです。上流階級の温室で育った鍵井さんにとって、亜未さんは生まれてはじめて見る庶民の女の子。だから、興味津々なんです。
今まで会ったことない種類の人間ですから、常に亜未さんの行動を観察したくなってしまう。鍵井さんにとって亜未さんは新種の珍獣なんですね。亜未さんからしてみればたまったもんじゃないですが、悪気はないんです。
もっとも、亜未さんのほうも鍵井さんのことを珍獣扱いしているんですけれども(笑)。
――そんな感じでしたね(笑)。さて、そんな魅力溢れるキャラクターたちが活躍する「ノブレス・オブリージュ」ですが、とくにこだわった点とかはあるのでしょうか?
ひとつあげるとするなら、話し言葉ですね。
頭の中で何度も彼女らの会話を再生し直して、確認して、アウトプットしましたから。TPOで言葉遣いを使い分けている細かなニュアンスまで再現できていると思います。
たとえば楠葉さんを例にあげると、じつは自宅のお屋敷のほうが、かしこまった話しかたをしているんですね。お屋敷では執事の藍原やメイド長の秋野に見つかるとうるさいですから。だから、むしろ初対面の亜未さんと話をしているときのほうがリラックスした話しかたになっていたりする。
そういう微細なところまで楽しんでいただければいいな、と思います。
――それでは最後になりましたが、読者のみなさまに一言おねがいします。
『CSG47』のことは冗談です。ですが、『ノブレス・オブリージュ ~茅森楠葉の覚悟~』についてお話したことは本当に本当ですよ。
ですので、是非チェックしていただければな、と思います。
よろしくお願いします!
――ありがとうございました。
こちらこそ、どうもありがとうございました。
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