受賞者インタビュー第三十七回 第4回GA文庫大賞《奨励賞》受賞作12月15日発売「しきもんつかいはヒミツの柊さん」 著者・桂木たづみさんインタビュー
――ついに発売されたデビュー作「しきもんつかいはヒミツの柊さん」ですが、現在の心境は?
いまだに実感が湧かずにフワフワしています。
――この作品を書こう、と思ったきっかけなど、エピソードを聞かせてください。
えーと。一回ライトノベルというものを、きちんと意識して書いてみようと思ったのがきっかけです。
――……と、いいますと。
じつはこの「しきもんつかいはヒミツの柊さん」の前に書いた小説が、初めて書いた小説だったんです。それまで頭の中で物語をこねくり回すのは好きだったんですが、形にする努力ということを一切してこなかったもので。
ある時ふと思い立って、実際に小説を書いてどこかの賞に応募してみたいと思ったのですが、自分の考えるお話がどういうジャンル、というかカテゴリーにあるのかよくわからなかったんです。
で、「自分の頭の中にあるのは、中高生くらいの男子向けの、マンガのような話だなあ」と考えて。それならライトノベルという分野があるらしいぞ、という結論に至りまして。
――それまでライトノベルは読んだことがなかったんですか?
えーと、はい。乙一さんの本とかは何冊か読んだことがあったんですが。
書き始めるようになってから、勉強のために読むようになりました。
今では勉強のため以外にも、楽しんで読んでいます。
毎日読んでいます。欠かさず読んでいます。
――そんなに必死にならなくても良いです。それで書こうと思って書けたんですか?
一応、4ヶ月ほどかかって……。
ただ書き上げてから気づいたのは、というより書いている最中に色々調べていて気づいたんですけど、これライトノベルじゃないなあと。
――どのような話だったんですか?
性同一性障害の男の子と性同一性障害の女の子のラブコメです。
書き始める前は「これぞライトノベルだ」と自分では思っていたんですが、知識を得るうちに「これはライトノベルとして絶対に商品にはならないな」とわかってきまして。
実際その小説は三回ほど他賞に使い回したんですけど、毎回計ったように二次選考で落選していました。まあカテゴリー云々の前に、他にも稚拙な部分が沢山あったからなんですけど。
それで、じゃあ自分なりに現在のライトノベルを分析して、『これなら受け入れてもらえるだろう』と思うものを書いた場合、どれだけのものが書けるのか、どこまで行けるのか興味が湧いてきて、もう一度書いてみることにしたんです。
その時決めたのは、『主人公は平凡な男子高校生。ヒロインは3人くらい』ということだけです。今考えると、その認識もどうかと思うんですけど。
――投稿作のアイデアはすぐに浮かんだんですか?
いえまったく。
ただ当時、というか今もですけど、『よんでますよ、アザゼルさん。』というマンガが大好きで、この雰囲気を小説に落とし込めたら絶対に面白いだろうな、とぼんやり考えていました。
影響は強く受けていると思います。担当編集者の方に初めてお会いしたときにそのことを一発で見抜かれて、「プロの編集者というのは恐ろしいな」と思いました。
で、いつものようにボーッとしていたある日、不意に頭の中に会話シーンが浮かんだんです。主人公が花壇でるーくんに噛みつかれているシーンです。
その時の舞台は花壇ではなく駅のホームで、主人公・もえぎ・るーくんたちにも名前が無かったんですが、会話の流れは刊行されたものほぼそのままでした。
その会話を頭の中で再生して、思わず自分で笑ってしまったので、どうしてそういう状況になったのか、その後どうなるのかなど色々考えて、今の形になりました。
――どうしてGA文庫に応募しようと思ったのですか?
3つあります。
1つ目は十一月初旬に書き上げて、何処に出すとも決めずにダラダラと推敲していた原稿が手元にあったこと。
2つ目は、家のプリンターが壊れていたこと。CD-Rでの投稿が可能だったということに、何か運命的なものを感じました。
3つ目は、評価シートが丁寧で、選考中の編集部のツイッターがえらく面白いらしい、という評判を聞いたからです。
評価シートは結局貰えませんでしたが、ツイッターはとても面白かったです。毎日ワクワクできました。
編集部の方はお忙しいとは思いますが、できれば全作品について呟くくらいの勢いでやっていただけると、応募者にとって凄く励みになると思います。きっと、皆さんが考えている以上に。
――善処します。
というか、僕も何か新しいのを書いて、もう一回送っていいですか? こっそり名前変えて。
――困ります。では刊行にあたって、応募原稿から変更があったポイントなどはありますか?
もえぎの外見が変わりました。元は完全なメガネっ娘だったんですけど、『いざという時だけメガネをかける人』に変わりました。この変更は、変身ヒーローみたいな一面が出せて良いな、と思いました。
ハナハナは名前が変わりました。最初はハナハナこと花村覇奈じゃなかったんですけど、「そういう名前のキャラは既にいる」ということで。調査不足でした。
雪白はほとんど変わってません。投稿前に、お嬢様口調にするか今の口調にするか迷って、8回くらい書き換えたり戻したりを繰り返してたんですけど、結局今の口調に落ち着きました。
――作中でのお気に入りのキャラはいますか?
その時々で変わります。
書き始めた当初はもえぎだったんですけど、ハナハナが勝手に動いてくれて「こりゃラクでええわい」と思ったり、雪白が「ああ、バカで良いなあ。じつにバカだ」としみじみ感じたり。
そういうわけで、今は桜野さんです。
――桜野さんというと、えー……
主人公ともえぎが中庭にいる時に呼び出しに来る、クラスメイトの女の子です。
――(確認中)……って、モブキャラじゃないですか
モブ萌えです。
――(気を取り直して)イラストを担当したパセリさんについて聞かせてください。
出来上がったイラストを拝見させていただくたびに、「ああ、パセリさんにお願いできて本当に良かったなあ」と思いました。
絵師さんを選んでいた当時、書きかけの原稿に『パセリ』という単語が大量に使われていたので「これは運命だな」と感じて第一希望にお願いしました。
――作品の見所・アピールポイント・こだわった点などを教えてください。
ピントのズレたキャラクターたちによる、真剣でバカなやりとり、でしょうか。会話シーンは書いていて楽しかったです。
長く会話が続くシーンを『ボーナスステージ』あるいは『無敵タイム』と呼んでいて、書いている間、頭の中では常に『マリオがスターを取った時に流れるBGM』がリフレインしていました。
他にこだわった点は、文章のリズムとテンポです。何度も声に出して読んでみて、引っ掛かる箇所がないかチェックしました。。
――最後に読者のみなさんに一言お願いします。
手にとって、読んでいただいて、楽しんでいただけたら嬉しいです。
そこが貴方のお部屋で、くずかごに「しきもんつかいはヒミツの柊さん」のレシートがあればさらに。
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