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GA文庫TOP > GA文庫大賞 > 第8回GA文庫大賞(2016年)

GA文庫大賞AWARDS

結果発表

第8回GA文庫大賞 優秀賞受賞者発表!

おかげさまで第8回GA文庫大賞は前期706作品、後期840作品、合計1546作品ものご応募を頂きました。多数のご応募ありがとうございました!
ここに第8回GA文庫大賞・優秀賞の選考結果を発表させて頂きます。


優秀賞

ペンネーム 作品名
機村械人 そのオーク、前世(もと)ヤクザにて
サトウとシオ 例えばラストダンジョン前の村の少年が
都会にあこがれ序盤の街で暮らすような物語
菱形三覚 ギャンブル・ウィッチ・キングダム

奨励賞

ペンネーム 作品名
徒埜けんしん 黄昏し神々
中村ヒロ Bright Blood
西島ふみかる こちら、厚生省エンタメ汚染症対策推進室
山貝エビス デボネア・リアル・エステート

※敬称略・50音順

■総評
第8回GA文庫大賞の最終発表をお届けします。
今回も多数の作品応募があり、作品総数は前期後期合わせて1546作品となりました。昨年に引き続き、過去最高の応募数を更新しています。
様々な魅力を持った作品が数多く集まったおかげで、今回も熱い選考会となりました。ご応募を頂いた皆さん、本当にありがとうございました。

すでに発表のとおり、前期と後期で奨励賞の受賞作が7本選ばれていますが、今回最終選考の結果、3作品が優秀賞ということになりました。
選ばれた3作品はそれぞれ独自の魅力があり、全体の完成度も高いレベルでまとまっていました。
惜しくも奨励賞に留まった作品もありますが、優秀賞作品と大きな差があったわけではありません。いずれの作品も非常に読み応えがあり、楽しく選考させて頂きました。

ちなみに第8回の受賞作についてですが、それぞれを一言でまとめると、学園異能バトルブラッディ風味、異世界勇者村、エンタメスレイヤー、異世界ギャンブル、異世界土地転がし、神様ヤクザ、転生ヤクザ、となります。
殺伐としてますね。何があったGA文庫。

それはさておき。
第8回の応募者ですが、平均年齢28.35歳と大きな変化はありませんでした。
ですが、Webなどで発表された作品が散見されるなど、応募者全体の動向は大きく変わりつつあります。応募要項のQ&Aページに主な疑問点への回答を用意していますので、選考対象外にならない作品は積極的な応募を検討ください。

次回、第9回前期の応募も始まっています。
まだ見ぬ読者へあなたの作品を届けるためにも、皆さまの熱い作品をぜひご応募ください。スタッフ一同心よりお待ちしております。

優秀賞

そのオーク、前世(もと)ヤクザにて

PN. 機村械人

【あらすじ】

■現在(?)■
 鬼瀬龍平(きせ・りゅうへい)の意識が覚醒した時、ヤクザであったはずの彼は、自身が『オーク』=レイガスという男になっている事に気付いた。
 そして彼の眼前で、一匹の『オーク』が一匹の『オーク』を殴っていた。

■過去、あるいは……(?)■
『なぁ、鬼瀬龍平って知ってるか?』
『知らないわけねぇだろ。三条組若衆頭、背中に馬鹿でけぇ鬼の入れ墨背負った、〝三条の鬼〟。俺は直に見たことあるが……190近い長身で、ガタイもかなりイカつかったぜ』
『強ぇんだよな』『今更何言ってんだ、だから〝伝説のヤクザ〟なんだろ』
『拳銃や日本刀相手に素手で勝っちまうって噂、マジなのかよ』『喧嘩(ステゴロ)が強いってだけじゃねぇ、度胸っつぅか、胆力っつぅか、漢気みてぇなもんが尋常じゃねぇンだよ』
『武装して殴り込みに来た敵対組に、真正面から立ち向かったって……』
『そのカチコミに実際に参加した、敵対組の奴から聞いたんだがな……刃物(ヤッパ)持ってようが銃(チャカ)握ってようが関係なしに、正面から次々に叩き潰されたんだとよ』
『武装した十数人相手にか?』
『28人。全員病院送りだ。そいつも殴られて顎を真っ二つにされてたぜ。言ってたよ、人間相手にしてる気がしなかったってな……で、なんで今そんな話しだしたんだ?』
『ああ、さっき上から流れてきた話だが、その鬼瀬の組長(オヤジ)の屋敷が襲撃されたんだとよ。相手は、十中八九、荒吐(あらばき)組だろう。三条組長は死んで、一人娘のお嬢は攫られたらしい』
『マジかよ……命知らずだな』『ああ、鬼瀬が黙ってるはずがねぇ』
『荒吐組の奴ら、皆殺しだぜ』

■再び現在(?)■
 ――俺は何なんだ。
 先刻から、レイガスの脳裏に浮かぶのは、そんな言葉ばかりだった。
 ――ここはどこだ。
 ――俺は何をやっているんだ。
 次々に湧き上がる疑問と判然としない自我。けれど、体の奥底から噴き出す憤りにも似た感情に任せ、レイガスは動く。壁にかけてあったカンテラを振り回してきた他のオークの攻撃を躱し、その面に拳を打ち込んだ。
「…………」
 記憶、自意識、知能。思考をすれば、すぐに出てくる情報を元に現状を理解しようとする。ここは、収容所。犯罪者や乱暴者、ともかく外の世界では放っておけないならず者を閉じ込めておく、刑務所のような場所だ。この肌の浅黒い生き物はオークという。自分も、それの仲間だ。
 それは、何とかわかる。
 だが、レイガスの知りたい事は……思い出したい事は、それではない。
 ――俺はどこにいた。
 ――どこで、何をして、どうして今、こうなっている。

 瞬間、その足が、レイガスの頭部を踏みつけた。
「喜べ。殺処分だ、この豚が」

【選評】

 この作品の魅力で一番に上げられるのは、主人公のレイガス(オーク)。前の世界では古いタイプのヤクザだったということもあり、筋を通すことを信条とする熱い男。
 一方で作品全体には前の世界と現在の世界を繋げる謎や伏線が幾つも散りばめられており、その運命に翻弄され、もがくレイガスの姿はとてもドラマチックに映ります。
 また、他に登場するキャラクターたちもヒロイン含め一筋縄ではいかない連中がゴロゴロと存在し、読み手にとっては良い意味で気が抜けない緊張感も存在します。
 バトルシーンの描写も迫力があり、作品の世界観はとにかく壮大。読み応えが抜群の、「王道」且つ「骨太」なファンタジー作品だと思います。

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優秀賞

例えばラストダンジョン前の村の少年が都会にあこがれ序盤の街で暮らすような物語

PN. サトウとシオ

【あらすじ】

村で一番か弱い少年ロイドは、村人たちの反対を振りきって上京を試みる。
しかし大陸最果てにある『コンロン』の村は、ちょっぴり事情が違っていた。
なぜならそこは、世界を救いし太古の英雄が築いた幻の集落で、
住民全員が英雄の子孫であるため、子供からお年寄りまで常識外れな力の持ち主なのだ。
もちろんロイドも例外ではなく、自分を一番弱いと信じて疑わないまま都にむかってしまう。

道中、モンスターをモンスターと思わぬままあっさり倒したり、
汽車で何日もかかる大陸横断の道程をジョギング感覚で踏破したり、
さらには呪いに苦しむセレン姫を通りすがりに救って惚れられてしまったりと、
無自覚に圧倒的な強さを発揮しながら、都で行われる士官学校の採用試験にたどりつく。

ロイドはその会場で軍の有力者や、凄腕の女傭兵リホなどに実力を見抜かれ一目置かれるが、
都会のスケールでは測りきれないロイドの試験結果のせいで、あえなく不合格に。
しかしなんとかして彼を軍人にしてあげたいと、セレンやリホは
王国を揺るがす大事件を解決する大手柄をロイドに挙げさせようと奔走しはじめるのだが……?

【選評】

 自己評価と実力にギャップがありすぎる素直な少年が、ひたすら勘違いを繰り返しながらも無自覚な大金星を挙げまくるというファンタジーコメディです。
 自分の強さに無自覚どころか、むしろ弱い方だと思いこんでいる純真無垢なロイドくんの謙虚で天然な姿が笑いを誘います。また、彼の実力に気がついてしまっている人たちのリアクションがいずれも面白く、過剰に怯えたり、惚れこんでしまったりと周りを含めてギャグになっています。そうしたギャグの切れ味とキャラクターの魅力が特に秀でており、受賞となりました。

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優秀賞

ギャンブル・ウィッチ・キングダム

PN. 菱形三覚

【あらすじ】

「――あなたがどこまで這い上がってこられるのか、楽しみにしているわ」

 唯一魔女フォルトナが君臨し、賭け事の勝敗であらゆる物事が決まる世界。そんな魔女のお膝元、賭博都市ラズウェルを一人の少年・ウィルが訪れる。
 かつて魔女との賭けに敗れて、家族と村人全員の命、そして自身の『運』を奪われたウィルは、1000分の1のハズレすら引き当ててしまう「運に見放された者(ラックレス)」と呼ばれていた。そんな彼の目的は海千山千の賭博師たちがひしめく大都市ラズウェルで『賭博師』として名を上げて魔女からの『招待状』を手に入れ、復讐を果たすことだ。
 だが、ラズウェルについて早々ウィルは『賭博師』の少女・リゼットと出会い頭に激突し、トラブルに巻き込まれてしまう。

「人の初キスを奪っておいて、自分は被害者? 許さない、許さない、許さないっ」
「(ああ――いつも通りついてない)」

 「馬鹿正直(オールストレート)」と揶揄されるほど勝負に向いていないリゼットと、なんだかんだで行動を共にすることになったウィル。一方、ラズウェルの街中では賭博師が謎の死を遂げる事件が連続して発生していた。自らの過去との類似性から裏に魔女が暗躍していることを直感したウィルは独自に調査を開始するが――!?
 これは魔女とギャンブルが支配する世界に、「無運(ラックレス)」の少年と「馬鹿正直(オールストレート)」の少女が抗い戦う物語。

【選評】

 賭博ですべてが決まる世界で、魔女に「運」を奪われた少年がギャンブル都市の頂点を目指す本作。世界観や主人公の境遇、目的などの要素がうまく噛み合い、それだけで読者の興味をそそる力があると感じました。
 作中で行われる賭博戦はルールがシンプルでわかりやすく、ロジックと機転で賭けをクリアしていく流れが爽快でした。キャラクターの立て方も優れており、暗い思考に陥り勝ちな主人公ウィルのそばで雰囲気を和ませてくれる能天気な少女リゼットをはじめ、脇を固めるキャラクターもそれぞれに個性的で、そのことが賭博勝負での面白さにもつながっています。
 魔女についての手掛かりや賭博師たちの変死事件といった要素も、物語に深みを与えており、読者を最後まで飽きさせない作品になっていました。

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奨励賞

黄昏し神々

PN. 徒埜けんしん

【あらすじ】

「……朔、いそいで」

 高校二年の一学期最後の日。
 遅刻しそうだというのに、伊岐朔の意識は明日から始まる夏休みの方に飛んでいた。

 朔の手を掴んで走るのは、稲羽白。腰まである長く透きとおった絹のようなしろい髪に、月も星もない闇夜よりも黒い瞳を持った美少女だ。
 そして、そんな白の頭には、しろくて柔らかそうな大きな垂れ下がったロップイヤーがあった。

 稲羽白は、うさぎの『神人』だった。
 もちろん朔も、外見は人間だが月神の子孫である『神人』だ。

 神人は、神そのものではないが、人間でもない。ほとんど神だ。人と同じように肉の体を持ってはいるが、その体は人のそれより強い。
 そして、神の力もある程度使えたりする。そんな神人は、人にまじって地上で暮らしていた。

 終業式のあと。
 朔が白に通知表の中身を尋ねると、すべて10だった。

「おー、白は流石だな!」

 朔が感嘆の声を上げると、白の顔が紅潮する。短い尻尾もぶんぶん揺れる。
 そして座っている朔に向けて頭を突きだす。朔がうさぎ耳とうさぎ耳の間を優しく撫でると、

「ふへへ」

 白の声が漏れた。

 帰宅後。

 そんな朔と白のところに、犬神である犬吠埼組の組長・春が現れた。
 厳密にいうと、神衆組織月夜見一家の総長である、朔の父のもとに。

「――いっ犬吠埼組組長、犬吠埼春でありますっ! 月夜見一家の親分に、犬吠埼組を助けて欲しいのであります!!」

 白よりも頭半分ぐらい背が低く小柄で胸もつつましく、より幼い印象を与える春。
 肩まで伸びた金に近い明るい茶色の髪に、同色の耳と尻尾、そして澄んだ青の瞳をした可愛らしい少女だった。

 朔の父の盃を受けたいと望む春。
 つまり、それは犬吠埼春が、犬吠埼組が、月夜見一家の傘下に入るということでもある。
 春は、父が死に、14歳だった春が後を継ぐとともに始まった、素戔嗚組系二次団体六坂組からの攻勢に抗するため、
月夜見一家の力を借りたいと言うのだが……。

【選評】

 いつも朔の傍にいる無口系うさみみヒロインの白が、朔に撫でられる度に「ふへへ」と笑うところがとてもツボでした。
 作品としては神人同士の抗争モノ(?)ということで、ジャンルとして珍しく、目を引きました。
物語の展開や文章もしっかりしていて、気付かないうちにいつの間にかページを手繰ってしまっているという、読みやすくて先が気になるお話になっていたと思います。
 構成員同士のバトルや組織のエピソードは、ある意味リアルで救いがないところもありますが、あくまで現実世界でなく神人同士の抗争のお話なので問題ありません!
 選考の際、白の評価が高かったですが、個人的には14歳なのに犬吠埼組を支えて必死に頑張ったり、ぱたぱたしっぽを振って懐いてくれる犬神の春も、とても可愛らしいと思いました。

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奨励賞

Bright Blood

PN. 中村ヒロ

【あらすじ】

「ジェネレート、タイプファイア!」
「そんな小学生の教科書に載っているような血魔法が通用すると思っているの?」
池田弥彦は、血液をエネルギー源とした魔法『血魔法(ブラッドノア)』を学ぶ小中高一貫の女子校、香侯高校の共学化に伴い編入した男子一期生。
「これで俺も血魔法使い!」と、喜び勇んで入学した池田と男子生徒たちはしかし、編入早々教室に血をぶちまけ、内蔵を晒す屈辱を味わうことになる。――女子たちの扱う血魔法によって。
「男子の皆さん。これから三年間、女子の奴隷として頑張ってください」
学年主席で男子嫌いの藤堂綾子がけしかける、パシりからストレス解消のための虐殺(死んでも生き返る)までやりたい放題の横暴に、我慢の限界を迎えた池田と男子生徒たちは、「血液恐怖症」のため孤立していた少女・如月灯花を仲間に引き入れ、反抗を目論むのだが――!?
熱き血潮が(文字通り)迸る、血まみれの青春学園異能バトル!!

【選評】

 元女子校に入学した男子たちの反抗を、血を触媒として発動する魔法「血魔法」で彩った熱い物語。
 設定の核となる血魔法の使い方が秀逸。生々しい描写でエグく見せ過ぎることなく、かと言って単なる「魔法」の一種に留まらせず。血を活性化させての驚異的な身体強化だったり、変質させての武器化、果ては歴史上の偉人召喚など、意外性のあるユニークな使い方で盛り上げています。
 またそれぞれがバカでノリの良い男子はもちろん、破格の魔法演算力を持つものの「血液恐怖症」を抱え、それでも一心に血魔法使いを目指そうとする想いが伝わってくる健気なロリ系ヒロイン如月や、藤堂に次ぐ実力があるのに男子に偏見が無く、女子ながら池田をしっかりみてくれる実力者・天野などキャラクター造形も秀逸。役所が明確で立っており、その掛け合いが総じて高評価でした。

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奨励賞

こちら、厚生省エンタメ汚染症対策推進室

PN. 西島ふみかる

【あらすじ】

 アニメや漫画、ライトノベルなどのエンタテイメント作品にのめり込み、ついには想像の中に引き籠り、昏睡状態になってしまう『エンタメ汚染症』が蔓延した近未来。この汚染症が周囲に感染することが分かり、感染源となる患者を隔離するしかなくなり大きな社会問題となっていた。
 この患者を救う方法はただ一つ。患者の想像世界へと精神ダイブし、何らかの方法でその幻想を壊して、現実世界に引き戻すこと。

「俺はエンタメを滅ぼす。そして、いつの日か、みんなを救い出す。必ず、また家族一緒に暮らせる日がくる。それまで、待っていてくれ」

 主人公・天津響は、対策・治療の政府機関「エンタメ汚染対策推進室」にインターンとして入局する。
 響の父も潜入治療を行う優秀な潜入官だったが、あるテロリストの罠で感染し、母、妹と共に隔離処置されていた。
 響はテロリストを捕まえて、父の治療法を聞き出すために、潜入官になったのだ。

「私情を挟まないでよ! あなたは私の指示に従って、観察してればいいの!」
「お前ってつくづく嫌な女だな……改めて思ったわ」

 新人で実績は何もない響だが、何故か将来を嘱望される優秀な獅子堂世莉とコンビを組むことになる。
 患者を救うために無茶をしてしまう熱血タイプの響と、優秀だがエリート志向で自分のキャリアにこだわるクールな世莉。
 水と油な二人のコンビはチームワーク最悪だが、ときに反目、ときに一緒に暴走しながらも様々な症例に挑み、最高の潜入治療コンビとして成長していく。

【選評】

 「エンタメ依存性」によって多くの人が昏睡し、社会問題となっている近未来という世界観は独自性が高く魅力的に感じました。
 また、患者を救うために患者の精神に同期して、様々なタイプの妄想世界に潜入捜査をしていく主人公、というのは斬新なアイディアだと思います。さらに、設定や用語もよく考えられており、物語に深みと広がりを感じました。
 キャラクターは主人公・響とヒロイン世莉の関係性が丁寧に描かれており、切磋琢磨して成長していく2人に好感が持てました。主人公たちの脇を固めるサブキャラや患者も個性的で物語に花を添えてくれます。
 破天荒で熱血タイプの響と知的でクールな世莉の二人が協力して潜入治療を成功させていく展開が、時に感動的で時にコミカルに描かれ、最後まで楽しく読ませて頂きました。

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奨励賞

デボネア・リアル・エステート

PN. 山貝エビス

【あらすじ】

伝説の傭兵ルーウィンが出会ったのは、可愛い見た目と裏腹に、誇り高きハイ=エルフとは思えないほど人使いが荒く、守銭奴な少女だった。地上げ屋(スナッチャー)…もとい不動産屋(リアルエステート)で働く事となった元傭兵の運命やいかに!?

『下僕募集 年齢性別不問 あご あし まくら 恵んでやる』
「ひでえなこりゃ……」
ボロボロの求人広告にはそう、書かれていた。
伝説の傭兵【双剣の餓狼(ダガーウルフ)】と呼ばれたルーウィンだったが、今はとある事情で仕事も宿も金も、ない。
わずかな望みをもって訪れたそこは、(見た目は)可愛いエルフの少女が営む不動産屋だったのだが――。
「……はぁ!? この誇り高きハイ=エルフのあたしがぁ? 恥知らずで守銭奴でクソったれの浅ましい欲にまみれたチンピラみたいな地上げ屋だってぇ!? あたしはね不動産屋! そんなクズと一緒にしないで!!」
かくして、エルフの地上げ屋×元・傭兵の最凶不動産屋が超爆誕!!

【選評】

 金にならないことはしない!?
 メインヒロインのデボネアが、とにかく印象に残るキャラクターでした。
 ハイエルフなのに粗暴で守銭奴……という、ヒロインとしてはだいぶダークな人物造形ですが、彼女が営む「不動産屋」のことを考えると、この性格がむしろとてもよく嵌まっていました。

 「不動産屋」といっても、このファンタジー世界では土地ごとにそこを守護する「守護精霊(スプリガン)」がいて、それを倒して(それこそ、バトルだったり口撃だったりで!)配下に置くことで、土地を手に入れられるシステムになっており、彼女の絶対的な魔力&あくまでも「物件を取りに」ゆく姿勢がマッチしていた印象です。
 この強引な性格は、読み手によっては好き嫌いがでるかもしれないですが、彼女には家族思いな可愛らしい一面もあり、個人的には魅力的に感じました。
 また、主人公のルーウィンも、ただ強い元傭兵、というだけでなく呪いによっていまは姿が子供に戻ってしまっている……という味付けもあり、物語の構成にも一役買っていて良かったです。
 デボネアにほぼ出会い頭「下僕」認定されますが、そこをぐっと堪える大人力(!?)もある……かもしれない、包容力のある性格もヒロインとバランスが取れて良かったように思います。
 エルフやオークが跋扈するファンタジー世界ですが、軽快に物語が進むので気軽に楽しめるエンターテイメント作品に仕上がっていたのも良かったです。