あわむら赤光大いに語る!『聖剣使いの禁呪詠唱』全22巻・著者セルフレビュー(その1)

 

GA文庫最長シリーズ「聖剣使いの禁呪詠唱」完結を記念して、著者あわむら赤光先生にインタビューをいたしました。

 

テーマはずばり「ワルブレ全巻セルフレビュー」!

 

著者自らが語る、ワルブレの見所、思い出話、そして今だから明かせる裏話的な内容などなど。
全22巻なのであわせて3回の連載形式の記事でお送りします。

 

 

第1回となる今回は、記念すべき第1巻から、シリーズ屈指の難産だったとふりかえる第7巻までのインタビューをお届けします。


 

1巻
2012年11月刊行
同時刊行:ハンドレッド、幻國戦記CROW

 

諸葉、サツキ、静乃、三人のための物語

 

――まず、シリーズ初めとなる第1巻についてお聞かせください。

灰村諸葉という主人公の強さとかっこよさを、とにかく堪能していただければと!

 

――そうですね。それが1巻から最終巻まで続くテーマになりましたね。

あとサツキと静乃という前世からの嫁二人と、イチャイチャしたりラブがコメったり真面目に心と心を触れ合わせたりというシーンも目白押しです。ワルブレシリーズの中核をなすこの三人による、三人のための物語がこの1巻です。

 

諸葉の根っこを描く第1巻

 

――執筆当時はどのようなことを意識していましたか?

 

諸葉というキャラの「根っこ」の部分を描こうとしていました。僕がメチャクチャかっこいい主人公と信じるキャラはこういう男なんですというのを読者さんに提示して、「なるほど、こいつは好きやな!」って思ってもらえるように、とにかくそこを丁寧に描きました。

 

実はサツキは「前世の妹」じゃなかった

 

――そういえば、サツキって初稿ではもうすこし違うキャラでしたよね?

 

実はサツキは最初、「前世の妹」設定はありませんでした。ただのお姫さまで、背景も薄味なせいかキャラクターもぺらぺらでした。で、初稿を読んだ担当のまいぞーさんに「静乃の方はとても魅力的で全く問題ないんですが、サツキはキャラ死んでるんですが……」という忌憚のないご意見もいただきまして。

 

――あー、いや、そんなきついこと言いましたっけ……?

 

まあ、実は僕もそう思ってたんです!

 

――じゃあそんな原稿提出しないでくださいよ!(笑)

 

と、まあ、そんな心温まる打ち合わせの後、ではどんな風にキャラを造り替えようかと散々悩んだんです。で、ある日、「妹だけど前世じゃないから関係ないよね」というフレーズが天啓のように思い浮かんで、今の設定になりました。

 

――あれは発明でしたね。アイデアを聞いたとき、すごい!と思いました。

 

面白い背景ができてしまえば、途端にサツキが活き活きと動き出して、今のキャラ造形が完成しました。

 

――ほかには1巻に込められた秘密などありますか?

 

春鹿もソフィアも丈弦も斎子も竹中も1巻からちゃんといる、ということですかね。

 

――ええ!? そうでしたっけ?

 

読みづらくしたくないので余分な情報量を抑えるために、敢えてキャラ名は1巻で出してないんですが、春鹿もソフィアも丈弦も斎子も竹中も1巻で一言しゃべってます。先の巻まで読んでから読み直すとどのセリフがどのキャラか分かるようになっていると思います。ただ春鹿の台詞がいま読み返すと「こんなかっこいい台詞は言わないよなあ……」と、ちょっと練りが足りなかったのを反省してます。ちなみに亀吉はいません。2巻書いてる時に思いついて爆誕しました。


2013年1月 あるいは現在進行形の黒歴史9巻発売


2巻
2013年2月刊行
同時刊行:妹様による、俺ルート攻略・ラブコメ理論

 

静乃の正妻オーラが止まらない第2巻

 

――続いて第2巻ですが、こちらの見所としては?

 

静乃がひたすら正妻オーラ出してるところです。サツキ、ごめん……。まーやもこの巻から本格登場するんですけど、やっぱ全部静乃が持ってっちゃったな、と。

 

――いわゆる「静乃回」でしたね。可愛かったです。

 

それから諸葉が初めて禁呪を使う巻でもあり、タイトル回収を半分してます。禁呪詠唱のシーンはとても力を入れて書いたので、読者さんにも好評だったとまいぞーさんから聞かされて、ひたすらうれしかった記憶があります。

 

ライヴァル登場回でもある

 

――シリーズ通して諸葉を支える人気キャラ・エドワードもこの巻から登場しましたね。

 

表テーマが「静乃回」なんですが裏テーマが「魅力的なライヴァル回」で、白騎士エドワードと御付のAJも気合入れて書いた……というか、こいつらはホント書いてて楽しいので、勝手に筆が乗りました。二人ともこの先ずっと要所要所で顔を出すんですが、ゲストキャラの中ではとても人気がある方ではないでしょうか? ヒロインズよりAJサンの方が好きって声もあるそうで、「諸葉とくっつかなくてゴメンね」って恐縮しました。


3巻
2013年4月刊行
同時刊行:ヴァルキリーワークス、放課後四重奏

見所は「すごい水着」!

 

――3巻はカバーイラストがエッチですね!

 

海! 水着! 合宿! 怪物! な3巻です。最後なんかちょっとおかしいですね(笑)
僕はイラストに関しては、基本的にイラストレーターの先生の裁量に多くをお任せするスタイルなんです。だから水着のデザインとかもただ「お任せします!」ってrefeia先生に丸投げしてしまったんですけど、そしたら静乃の水着が想像を絶するほどすごい奴で、初めて拝見した時、思わず椅子から腰が浮きました。いやすごかった……。

 

――モモ先輩はこの巻から本格登場です。

 

まいぞーさんのお気に入りキャラ・春鹿が大活躍します。あとソフィア以外のストライカーズの面々もですね。

 

長期構想に踏み出した第3巻

 

1巻がありがたいことに大変好評で売上げも良かったらしく、まいぞーさんが「現時点で最低でも8巻まで書けます!」って言ってくれたんですよね。で、長期シリーズ化できることになったんで、お話の世界観を一気に広げることができるぞ! って僕も喜んで、脇キャラたちに焦点を当てることができました。

 

――シリーズをどれくらい続けられるかで、書ける内容にも影響があるんですね。

 

おかげでこのワルブレシリーズで実は一番書きたかったテーマである「前世では『世界の敵』扱いだった諸葉だけど、現世では素晴らしい仲間たちに恵まれたからもう一人じゃない」っていう要素を描くことができました。

 

――長期シリーズにならなかったらテーマも変わっていたでしょうか?

 

そうですね。もし長期化できなかったら「前世の嫁は最高だった。そして現世でも最高だった。終わり」しか描く紙幅がなかったでしょうね。キャラの成長という点では寂しかったと思います。

 

六頭領の会談をいまこそ読み返してほしい

 

ワルブレ世界のスケールを飛躍させていいことになった恩恵はもう一つあります。六頭領の面々と、その会議の風景を書けたことです。あそこはメチャクチャ気合を入れて書いたんですが、一つに六頭領たちを「一筋縄ではいかない連中」だと描きたい、もう一つにシリーズ全体の伏線をここに詰め込んでおいて、読者さんがいつか読み返してくださった時に「ああ!」「あああ!」「ああああああ!」ってなってくれたらうれしいなあ、とそういう想いで書きました。ネタバレをしちゃうと「ランクSの数が合わない」とかそれに付随して「六人目のランクSの影」とか「雷帝ってホントに強いの?」とか「エドワードは駿河安東をどう思ってるか」とか「メタフィジカルが出現するの、そういえば日本を除くと国連常任理事国ばっかだよね」「サツキ覚醒中、安東はどうなってたか」とか、とにかくたくさん入ってますので、ぜひ一度読み返してみてください。オススメ!

 


2013年6月 あるいは現在進行形の黒歴史10巻発売


 


4巻
2013年8月刊行
同時刊行:最弱無敗の神装機竜《バハムート》、不死鬼譚きゅうこん 千年少女

 

難産だったけど可愛い子・レーシャ

 

――4巻では学園の外から敵が現れましたね。

 

そうですね、この巻がレーシャ登場回です。それから外国人対比でここで出すしかない! と温存していたソフィアも登場回なんですが、やっぱこの巻はレーシャが全部持っていっていると思います。ちょっとおバカで可愛いレーシャ、でも可哀想な背景があって、激怒した諸葉が彼女を救い出すというベッタベタのお話が、ベッタベタに面白くなるように全身全霊で書きました。

 

――レーシャもサツキ同様、初稿から変化しましたよね?

 

実はレーシャの性格付けは難産でした。背景設定は最初から決まってたんですが、「この子はこういう性格」って骨子がなかなか出来上がらなくて、シーンごとに言動がブレブレで、苦労しました。これじゃ魅力的にならんぞってことで焦り、腰を据えて、「諸葉と一対一の会話」「サツキと一対一の会話」「静乃の一対一の会話」という風にケース別のSSを書きまくって、ようやく骨子をつかむことができました。

 

――そんなトレーニングを積んでいたんですね!

 

難産だった分、以降はずっとレーシャはよく動いてくれる、可愛い娘に育ちました。

 

――他にも4巻の秘蔵エピソードはありますか?

 

田中先生についてですかね。諸葉の担任である田中先生の正体は、1巻を書く前の構想段階から決まってて、描きたいシーンも結末までバッチリ頭の中にありました。だから1巻からただ怪しげなキャラというだけじゃなく、強キャラ感を出しておりました。ただ、正体が判明するのはどれだけ先やねんって話なので、あんまり露骨に書かなかったんです。強キャラだと気づいてくれる読者さんもいれば、読み飛ばす読者さんもいて当然ってレベルに敢えて抑えました。でもアニメ化の時に、稲垣監督がそこをちゃんと読んでくれてて、「田中のさりげない強キャラ感は大事にしましょう」って言ってくださった時はとてもうれしかったです。


5巻
2013年11月刊行
同時刊行:神託学園の超越者<トランセンダー>

 

諸葉無双感の最大化を目指した第5巻

 

――5巻はロシア編ですね。見所はいかがでしょうか?

 

「諸葉、一人で戦争に挑む!」の回です。無双感、蹂躙感ではワルブレシリーズで一番じゃないか……と思いましたが、一回やられてるのでそんなでもないですかね? やはり作品テーマが「前世で孤独に戦っていた男が、現世で仲間たちに恵まれる」お話なので、最後まで無双と蹂躙だけで通すのも違うな、ということでAJサンに癒されたり、ストライカーズの皆が駆けつけてくれたりという展開にしました。

 

――初の外国編でもありますが、何か気をつけて書かれたことなどありますか?

 

ロシア料理を取材しようとわざわざ上京してロシア料理店さんをいろいろ回ったんですが、とても美味しかったです!!

 

――……あわむら先生の作品には食事のシーンがよく出てきますよね。この巻では特に印象的で、ロシア料理が魅力的に書かれていました。

 

美味しかったです!!

 


6巻
2014年1月刊行
同時刊行:ワルブレドラマCD第1弾!

 

書きたかったもう一人のライヴァル

 

――続いて6巻の見所を教えてください。

 

シャルル登場巻です。エドワード同様、構想段階からずっと書きたかった男です。それから元素衆登場巻でもあります。実はヴァシリーサとその部下たちは、このフランス支部の噛ませ犬でしかなくて、このワルブレ世界においても図抜けて強いシャルルとその一党が大暴れし、それを亜鐘学園生たちが立ち向かうという、諸葉だけじゃない皆の大激戦を描いた巻であります。そして最後に降臨する魔神級メタフィジカルの圧……! 

 

――シャルルはすごく良いキャラですよね。セリフが素敵なんです。

 

ありがとうございます。キャラの決め台詞がかっこよく書けると気持ちがいいんです。「ここで何か良いセリフが欲しいんだけど、しっくりくるのが思い浮かばない」ってウンウン悩むことが多いあわむらですが、シャルルの「世界最強の《闇術の使い手》は――このオレだ」は別でした。あの場面で、ああいう風に決めるのは、シリーズ構想段階から思いついてまして。もう早く書きたい書きたいってずっと悶々としてました。5巻執筆中にその悶々が溢れ返り、6巻でピークに達して、ついに書けた時は最高の執筆カタルシスでした。

 

――それはさぞ快感だったでしょうね!

 

あと、シャルルがフラヴィに作ってもらって飲んでたカクテルは「パリジャン」と言います。ざっくり言うと、マティーニにカシスリキュールを足したようなカクテルです。僕はすごく好きなんですが、バーのメニュー載ってることは稀です。バーテンダーさんってものすごくプロで、載ってなくても言えば「ああ、あれですね」って作ってくれるんですけど、やっぱどうしても完全網羅は不可能で、たまにご存じないバーテンダーさんもいて、お互い気まずくなるのがイヤで、どうしても注文できない男がこの僕です。


 

7巻
2014年5月刊行
同時刊行:悪逆皇帝の絶対魔装《ブラックドレス》、ぼくらのクロニクル<因果魔法大戦>

 

書き上げてから壁に当たった第7巻

 

――さて、第7巻についてですが、まずは見所をお願いします。

 

この巻は、炎の悪魔・熾場亮の登場巻です。……と言いつつ、ここではまだ活躍しません。
なので見どころとしては、卑怯な策略を仕掛けられた諸葉が怒りを爆発させるところや、シャルルが諸葉に対して天邪鬼な態度をとりつつも、だんだんと認め始める辺りではないでしょうか。

 

――なにやら思い入れが深い一冊とのことで……?

 

実はこの巻は、ワルブレシリーズで最もプロット(小説の設計図)をしくじった巻だったりします。難産だったという点ではシリーズ構想段階や最終巻がそうなんですが、この7巻は「行ける行ける」って楽観して書いてみたら、ゴミのような初稿が錬成されて、まいぞーさんと頭を抱えたっていう唯一の巻です。

 

――電話口でおたがい沈黙しましたよね、長時間。なかなかお力になれずはがゆい思いをしたことを覚えています。端的に言うと「諸葉がいないワルブレがどうすれば面白くなるのか?」みたいな難問でしたね。

 

もうストレス&ストレス&ストレス展開みたいになってて、初稿では商業レベルの読み物に達しておりませんでした。無論のことストーリー作りにおいて、ストレス展開はカタルシスの味わいをより高めるスパイスです。でもイコール、カタルシスのためという言い訳をし、ストレスフルな物語がなんでも許されるわけではありません。ストーリーの大筋自体は変えたくなかったので、もっと読みやすくなる工夫をしよう、そのためにもっとシーンにメリハリをつけようと、まいぞーさんとシリーズでも一番打ち合わせを重ねました。その苦労の結果は読者さんのご感想にゆだねますが、あわむら自身は最終的にはしっかり面白い巻になったと自惚れております……!

 

悩みを越えて生まれたキーパーソン

 

――結局、そうしたお悩みはどのように乗り越えたのでしょうか?

 

ストーリーの大筋を変えないまま、新しいキャラを出すことにしたんです。具体的には、ネリーこと白井宇佐子が初登場します。ありがたいことにご好評を得たキャラなのですが、実は初稿では影も形もありませんでした。メリハリをつける、もっと面白くする、という工夫を試行錯誤している過程で、その手段の一つとして思いついたキャラだったりします。シリーズ全体でもキーパーソンとなっていくキャラでもありますので、この「咄嗟に思いついた」という裏話をすると、皆さんけっこう驚かれます。いやあ、お話はどう転ぶかわからない、プロットも失敗してみるもんですね!

 

――………………………?

 

嘘ですしっかり練ってがんばります!

 

――諸葉と初対決が実現した、ヂーシンについては?

 

僕はゲッスいキャラを書くのも読むのも大好きです。で、この7巻には僕が勝手に「ワルブレ三大ゲスキャラ」と認定しているうちの二人、ヂーシンと高梨恭子が登場します。二人ともこの先、延々と諸葉たちを煩わせるキャラです。しかし白状しますと、高梨の方は狂言回し以上のキャラに育たなかったなあと反省頻りです。一方、ヂーシンの方はとにかく愛情がわいて仕方がなくて、最後の最後まで大切に描ききりました。ゲスキャラ界の作者に贔屓された男、それがヂーシンです。……ですが、「ヂーシン最高」「ずっと世に憚って欲しい」と好きな人には超好きになってもらえる、わかってもらえる一方、「さすがにしつこい」という感想も知人たちからいただき、賛否両論分かれております。皆さんはどうでしょうか……?


 

さて、担当のわたしもびっくりするようなお話もたくさん飛び出した全巻セルフレビューも少々長くなってまいりました。このあたりで一度休憩をはさみまして、8巻から続きの巻は次の記事でお送りしたいと思います。

 

あわむら赤光・ワルブレ全巻セルフレビュー(その2)