「伊達エルフ政宗」全国編1【九州】


20160328date_elf_masamune政宗
「今回から『伊達エルフ政宗』本編ではまだ登場しない全国の武将を地域別にいくつかピックアップして紹介していくぞ」

 

 

 

 


20160328date_elf_yuuto幸村「各武将のストーリーを抜粋といった体裁です。あくまで一部なので、各地方の武将ファンの方々には、広い心で見て頂ければ嬉しいです」

 

 

 

 

 

128地図

separate■竜造寺ドラゴニュート隆信(本拠地:佐賀城 佐賀市)

 生き延びたのは一族の数人だけだった。
 数え年十七歳の少年の胸の中ではまだ八歳の従妹が泣いている。彼女が泣いているから泣かずにすんだ。いや、少年は悲しんでいいのかすらわからなかった。
 信じられるわけがない。一族のほとんどが滅ぼされただなんて。
 しかも犯人は同じ少弐(しょうに)氏に仕える家臣たちだ。主君も同意したという。
 その日から彼、竜造寺隆信(りゅうぞうじたかのぶ)は一度も笑わなくなった。
 翌年、実行犯だけは生き延びた彼の曽祖父が仇を討ってくれた。だが老齢の曽祖父はその仕事を終えると、すぐに力尽きて、少年を竜造寺氏の後継者に指名し、こう言った。
「お前は英雄の器がある。きっと、ドラゴニュートを栄えさせてくれるだろう……」
 ドラゴニュート――漢字にすれば竜人。ドラゴンの角のような突起と、大きなドラゴンの羽が特徴の一族だ。伝説によればドラゴンの力を欲した人間が自分の娘をドラゴンの妻として差し出して生まれたというが、詳しいことはわからない。
 確かなのは竜造寺氏が代々、ドラゴニュートの一族だということだ。
 だから、人間の少弐氏や家臣から内心で恐れられていたのだ。
 数年後、元主君だった少弐氏を彼は滅ぼした。もう青年と言っていい歳になっていた。
 その時も彼は敵の城が落ちていくのを笑わずに見ていた。
「お疲れ様です、お義兄様」
 彼に声をかけてくれるのは最近、母親の再婚で義理の妹となった従妹の鍋島直茂(なべしまなおしげ)だ。生き延びた親同士の再婚だった。
 彼女もドラゴニュートで、ずっと竜造寺家に長らく仕えていた家柄だ。
「少しは楽しそうにしたほうがいいですよ、お義兄様。家中(かちゅう)が怖がっています」
 直茂にとって隆信は歳の離れた頼れるお兄ちゃんのようなものだった。だから、今の隆信が本来の隆信からはずれてしまっていることも知っている。
「もう、遅いよ」
 直茂の前で苦笑する時ぐらいは笑ってもいいかと隆信は思う。
「竜造寺は――ドラゴニュートは恐れられる存在だ。人間もほかの種族もドラゴンを恐れているんだ。もし力が弱いと見られれば主君にも命を狙われる。敵にも家中にも怖がられている間だけボクらは生きていける。ボクはできうる限り怖い男になる。敵も、信用できない味方も、恩人も、殺して得になるなら殺してやる」
 そして、何か予期したように、彼はこう付け足した。
「多分、ろくな死に方はできないだろうけど、その時は直茂が跡を継いでくれ。人から憎まれる部分はボクが全部引き受けるから」
「縁起でもないことを言わないでください!」
 怒られるのはわかっていた。でも、しょうがない。
「ボクが弱音を吐けるのはもう直茂しかいないんだ」
 うかつに気を許せばつけこまれる。数年前の悲劇がもう一度起こる。
 そうしたら直茂だって殺される。
 直茂は押し黙ったまま、隆信の顔を見ていた。隆信もその顔を見返すだけで何も言わない。もう言葉にするべきことはすべて言った。
 やがて、直茂は満面の笑みで、
「承知しました、お義兄様」
 と言った。どうにか隆信の気持ちはわった――はずだ。
「たしかにお義兄様の代わりができるのは私しかいませんからね」
「あと、その義兄様というのはやめてくれ」
「嫌です」
 隆信と比べ物にならないほど、直茂はやさしく元気に笑った。

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■大友セイレーン宗麟(居城:臼杵城 大分県臼杵市)
 今日も楽しそうに彼女は寝転がりながら歌を歌っている。
 大友家の当主、義鎮(よししげ)である。
 おそらく九州で最も高貴な人物の一人なのに、そんなふうには見えない。
「ふふふ~ん、ふふふ~ん」
 彼女が大友家の当主だった。セイレーンらしく鳥のような羽が背中から生えているが、寝転ぶのに邪魔だから閉じている。
 そこに屋敷内であるにもかかわらず、低空飛行をして近づいてくる女がいた。
 彼女は足が悪く、歩くのが苦手で、もっぱら飛んで移動する。
 そして、当主義鎮の前まで行くと、
「はい、だらけすぎなのでアウト。おしおきが必要ですね」
 バチン! バチン! バアァァン!
 作業のように、淡々と、しかし容赦はなく、尻を叩き出した。
「痛い! 痛いって! ベッキー、やめてよー!」
「ベッキーと呼ばないでください。戸次鑑連(べっきあきつら)なんですから、ちゃんと鑑連と呼んでください」
「わかったから、叩くのやめて! 私すごく偉いんだよ! それとも、ベッキーにそういう趣味が――ってまた威力上がった! 通告なしにパワーアップしないでよ!」
 ようやく、おしおきが終わった。
 すると、すぐに義鎮はけろっとしている。反省という発想がない。
「あ、そうだ、鑑連、私、出家しようかと思うんだよねー」
 鑑連はどうせ僧侶の名前って響きがかっこいいからとか、そんな理由だろうと思った。
「ほら、お坊さんの名前ってなんか響きがかっこいいでしょー?」
「勝手にしてください。仕事してください」
 大友氏の本拠だった府内(ふない)は海沿いにあった大都市だ(この時点では彼女は臼杵に引っ越しているが、こっちの周囲はほぼ完全に海)。セイレーンである彼女たちは歌で京に向かう船や海外との貿易船を無理矢理自分の領地に引きこんで商売をしていた。最近、南蛮船とかいうのも歌のせいで来るようになって、ますます儲かっている。
「それでお坊さんネームだけど、セイレーンだけに大友清蓮(せいれん)ってどう?」
「安直すぎます。あと、セイレーンと言うたびにあなたを呼び捨てにしてる感があって、言いづらいです。却下ですね」
「じゃあ……セイレーンからちょっと響きを変えて……宗麟(そうりん)はどう?」
「なんで鱗(うろこ)なんて字なんですか?」
「魚おいしいから」
「理由がアホっぽいですが、縁起悪い字ではないですしね。許可します」
 なぜか家臣の許可が必要になってることに本人は気づいてなかった。
「じゃあさ、ベッキーもそれっぽい名前つけてよ。鑑連って名前、ダサいしー」
 鑑連はパアァァンと義鎮の顔を叩いた。軽く義鎮は吹き飛んだ。
「失礼ですね。蹴りますよ」
「叩くのは通告ナシなんだ……」
「黙っててください。名前を考えますから。あまり義鎮様の声を聞くと頭が悪くなります」
「宗麟って決めたから、そう呼んでよー」
「黙れ」
 鑑連は一応真面目に考えた末、
「道雪(どうせつ)にします」
 と言った。
「う~ん、なんかシンプルすぎない?」
「私の名前なんだから宗麟様に拒否権はないです。それぐらい考えたらわかるでしょう」
「そっか……」
「とにかく、宗麟様はもっと真面目にしてくださいね。でないと立花鑑載(たちばなあきとし)のような重臣だって見限って裏切りかねませんからね。私が宗麟様を叩いてるのも周囲のウサを晴らして、お父上のように殺されないようにするためなんです」
「はははー、まさか鑑載が裏切るわけないよー。あいつが裏切ったら海に十五分潜ってあげる」
 そのあと、立花鑑載が裏切り、これを平定した道雪は立花家を継いだ。

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■島津ホムンクルス義久(本拠地:内城 鹿児島市)
「よし……。失敗はない。不足はない。行けるはず……」

 屋敷の地下室で島津義久(よしひさ)は小さくうなずいた。
 そこはもともと水牢として使われていた。だが、今の彼女にとって、それは大切な培養槽(プール)だった。
「南蛮人から言われたとおりにしたからね、あとは髪の毛を入れるだけ……」
 長く赤い毛を抜いて、一本ずつ、合計三本入れた。
 すると、目を背けたくなるような強い光が起こった。
 そして、その培養槽から義久そっくりの少女たちが姿を現す。
 一糸まとわぬ姿で同じ顔が三人並んだ。義久を加えれば同じ顔が四人だ。
「できた、できたわ! ホムンクルス製作に成功したのよ!」
 勝利の拳を振り上げ、そのまま近くにいたほうから名前をつける。
「あなたは義弘(よしひろ)、あなたは歳久(としひさ)、あなたは家久(いえひさ)!」
「「「いえす、まい・ますたー」」」
 ホムンクルスたちは声を合わせた。
「あ~、ちょっと禁断の秘術っぽいから、もうちょっと自然体のほうがいいわね。私が長女で、あなたたちは妹。四姉妹だったという設定でいくわ」
「「「いえす、まい・しすたー」」」
「あんま変わってない気がするけど、まあ、いいわ。いい? あなたたちは私の代わりに戦場を駆け巡るの。私はできるだけ遠くに行きたくないの。だらけたいの。だいたいパパの代から急に勢力拡大しちゃったけど、こんなの私の手に負えないわよ……。いい? 長女である私と島津家のために戦いなさい! 足が折れようと、腕が千切れようと戦いなさい! 私はその間、桜島でも見ながらぼうっとしてるから!」
「「「わたしたちのしんぞうをささげます」」」
「よくぞ、言った! じゃあ、服持ってくるわね。待っててね!」
 義久は地下室を出ていって、そこで待っていた父親に激烈に怒られた。
 しかし、すでに三人のホムンクルスは生まれてしまったのだ。

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「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。