政宗「4月のGA文庫新作『伊達エルフ政宗』本編ではまだ登場しない全国の武将を地域別にいくつかピックアップして紹介していくぞ」
幸村「今回は山陰・山陽編です」
■毛利ウンディーネ元就(本拠地:安芸吉田郡山城 広島県安芸高田市吉田町)
その日、毛利元就(もうりもとなり)は三人の娘を集めて話をした。
「はい、ここに三本の長い麺がある。たったの三本でも長ければ意外とお好み焼きの具としてインパクトが出る。このようにお前たち三人が力を合わせて――って聞いてないな」
長女の毛利隆元(たかもと)だけ聞いていて、吉川元春(きっかわもとはる)も小早川隆景(こばやかわたかかげ)も興味なさそうである。
「いや、まあ、吉川家の当主なんで。もぐもぐ」
「同じく、小早川の当主ですもので」
元春と隆景が「毛利家のことは勝手にやってください」的な態度で言った。
「ああ、やっぱり、やっぱりです……。この二人は私をバカにしてるんです……」
急に隆元が声を荒らげた。
「どうせ私なんて、お母様がいないと何もできない、ただのおりこうなだけの奴だって舐めてるんです! いっつもこうです! 全然仲良くできる気がしません!」
「隆元、落ち着け……。お前が思ってるほど嫌われたりしてないから……」
「じゃあ、この場で二人に聞いてみてください!」
「あっ、好きでも嫌いでもないんで。もぐもぐ」
「いやあ、姉さんはいつも姉さんですねえ(半笑い)」
たしかにあまり尊敬とかはしてる感じじゃなかった。
「もう、いいです! 私は隠居します!」
「隠居って誰が跡継ぐの!?」
そして隆元も被害妄想気味なのだった。
「私は継がないからな。もぐ、がつがつ」
「あと、元春、なんでずっと弁当食べてるの!?」
「ゆっくり噛んで食べるというのが吉川家ルールなんで」
「せめて食べてきてよ!」
「ああ、水の精霊ウンディーネらしく水のあるところに帰りたいですねえ」
「隆景もはっきり帰りたいって言うな!」
「このあと村上マーフォーク水軍と約束あるんです」
「ガチで帰る気だ!」
ぱっと見、相当もめている毛利一門だったが、いざという時にはそれなりに結束して、大大名に成長した。
■大内ケンタウロス義隆(本拠地:山口 山口県山口市)
「義隆(よしたか)様、なぜ私を討たなかったのですか」
重臣、陶隆房(すえたかふさ)は追い詰めた主君の前に出てきて問うた。もう、義隆を殺せば謀反は完遂となるはずだった。
「あら、あなたこそ、どうしてすぐにわかるように謀反を計画したのかしら?」
殺される前なのに義隆は平然としていた。一方、隆房は言葉に詰まる。
史上最も奇妙な謀反だった。ずいぶんと前から義隆のところに反乱計画は漏れている。それを義隆も知っている。反乱を起こす側も漏れていると知っているのにすぐに事を起こさなかった。
「私もあなたも女、どのみち一緒にはなれない身よ」
勇猛なケンタウロスである大内氏は何度も京都の政権を支え、長く京都に居座ることすらあったが、そのせいか義隆は文人気質が強かった。とくに尼子のミノタウロスに大敗してからは戦争をまったく考えなくなった。
一方で、陶は武勇をひたすら誇りにして生きてきた一族だ。隆房は遠ざけられることに怒りも覚えただろう。
ただ、それだけではこの奇妙な謀反の説明にはならない。
「最初から私に殺させるつもりだったのですね」
「前の戦争であまりに人を殺してしまったわ。その罪も償わないと」
「あなたが死ねば、大内の大帝国が滅びます」
「次の当主候補ぐらいは考えているんでしょう? もちろん傀儡でしょうけれど」
事ここに至っても、主従の関係は歴然としていた。義隆はわがままな主君として振る舞い続ける。
「隆房、簒奪者になればいいわ。きっと、あなたの政権も長続きはしないでしょうけど。さあ、あなたは誰に殺されるのかしら」
呪いのように、義隆は言った。
その瞳の奥は今から入る闇へと続いているように、深く黒い。
「では、いずれ、そこに参りましょう」
「ええ、あまり待たせないでね」
最期に大内義隆はにっこりと笑った。
■尼子ミノタウロス経久(本拠:出雲 月山富田(がっさんとだ)城 島根県安来市)
――鳥取県と島根県がどっちがどっちかわからない。
関東などでよく聞かれる言葉である。まあ、西のほうでも群馬県と栃木県を逆に覚えている人も多いらしいから似たものかもしれないが。
ただ、この鳥取と島根の順序問題は犯人がいるのだ。
一代で山陰の大君主となった尼子経久(あまごつねひさ)である。
ミノタウロスの彼は出雲(現在の島根県)の月山富田城を中心に、伯耆(ほうき)や因幡(いなば)(ともに現在の鳥取県)まで続くほどの巨大な迷宮を築き、敵が攻略できないようにした。
もともとミノタウロスはギリシア神話の中でも迷路の中に住んでいたと書かれているように、迷宮好きの種族であるから、こういう謀略を使ったのも当然かもしれない。
このため、一度尼子領国に入りこんだ敵は自分の居場所もわからぬままに攻撃を受けることになる。尼子氏は経久・晴久(はるひさ)と二代にわたって、この要害を利用して、敵を打ち破った。たとえば攻め入ってきたケンタウロスの大内軍を撃破している。逆に言うと、この迷宮から出ていくと脆さも露呈したようで、ウンディーネの安芸の毛利元就を攻撃して手痛く敗北している。
なお、鳥取県では牛骨ラーメンの文化があるが、これは一説にはミノタウロスに支配された民衆が長らく牛に憤りを覚えており、明治維新とともに牛を食べる風習が入ると真っ先に牛を煮込んだことによるものと言われている。
■宇喜多ノーム直家(本拠:備前岡山城 岡山市)
もともと備前(現在の岡山県)はノームの守護大名赤松氏の家臣、浦上氏が支配していた。この土地から大幅に勢力を拡大し、ついには浦上氏も滅ぼしたのが宇喜多直家(うきたなおいえ)である。
ノームは体の小さい種族であるため、軍事力では到底かなわない。
彼は徹底した謀略でのし上がることに決めた。
体が小さいということは様々な場所に潜りこめるということだ。宇喜多直家は毒殺、暗殺などの手段を繰り返して、勢力を伸ばした。よくすごい悪人のように言われる直家だが、ノームが生き残るには手段を選ぶしかないのだ。
しかし、ちょうどその頃、織田と毛利の勢力が東西両側からやってきた。まだ家臣団も充分に組織できていなかった直家だが、ノームの総大将として、この窮地を上手く立ち回ることが求められたのだった。
「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。