政宗「…………」
幸村(こいつ、本番はじまってんだからしゃべれよ……)
政宗「…………」
幸村(いや、だから、何かしゃべれよ! 放送事故みたいになるだろ!)
政宗「なんか、タイトルの告知だけで妙にネタにされたらしいんだが、私の名前ってそんなに面白いのか……?」
幸村(気にしてたんだ……)
政宗「政宗って、伊達家の中興の祖からとった由緒正しき名前なんだけどな……」
幸村「それは、政宗って部分じゃなくて、『伊達エルフ政宗』って響きがよかったんだと思う」
政宗「それって、『真田人間幸村』とか言ってるようなものだろう。面白い要素がよくわからん」
幸村「俺の世界だとエルフ自体いないからな」
政宗「人間の先祖が『エルフ』に対して間違った当て字を使ったこと、我々エルフはけっこう深く根に持ってるからな」
幸村「この世界だと、あれでエルフって読むのか……」
政宗「今回から、『伊達エルフ政宗』の登場人物をちょっとずつ紹介していこうと思う」
幸村「お前、ちゃんと仕事しろよ。すでに不安しかないけど」
政宗「黙れ。リアルタイムで大河ドラマの主人公だからって調子乗るな。死ね。大坂の陣の前に死ね。関ヶ原の前哨戦ぐらいで死ね。私が主人公だった時の大河の平均視聴率のほうがきっと勝ってるからな!」
幸村「そんなテレビの影響力がデカかった時代と比べるのアンフェアだと思う……」
政宗「まあ、いい。今回のキャラ紹介は私みたいだから、お前がかっこよく紹介しろ――と言いたいところだが、まず、真田のお前がなんで伊達家中にいるのか三文字以内で説明しろ」
幸村「できるか」
政宗「はい、四文字超えたから切腹~」
幸村「(無視しよう)俺はもともと真田勇十(ゆうと)っていう高校生だったんだけど、異世界の真田幸村の魔法で魂を交換させられた。なんか、俺の知ってる戦国時代と違ってて、ファンタジー世界くさいんだけど。エルフもドワーフもサキュバスもいるし」
政宗「北条のサキュバスのおかげで結果的に佐竹のアルラウネの動きを牽制できてて助かる」
幸村「こっちの世界だと佐竹も伊達の親戚でもあるんだけど、まあ、異世界だからいいのか。ていうか、東北って大半がエルフの支配領域だよな」
政宗「この伊達家もエルフの家だからな。東北だとエルフ以外の種族で重要なのはドワーフの蘆名(あしな)ぐらいだろう。ところでこっちの幸村はなんで魂の交換なんてしようとしたんだったっけ?」
幸村「サタンである織田信長の刺客に居城を襲われたんだそうだ。信州の真田家はイヅナ法っていう修験の法を伝えてたんだけど、これにサタンを封印する呪文があったらしい」
政宗「サタンは尾張国―終わりの国―から来た連中だからな。終末をもたらすつもりらしい。早く誰かが殺さないと大変なことになるぞ」
幸村「けど、こっちの世界は明智光秀が活躍してないんだよな……。話を戻すけど、信州の飯綱山(いづなさん)は変な忍術の研究がされてたとかいろいろ言われてるし、真田家にも忍者が仕えていたという話もあるから、イヅナ法なんてのがあってもおかしくはない」
政宗「あ~、魂にダメージが来る呪文を刺客に喰らって、一発逆転で魂を異世界の違う立場の人間と交換したんだったな。聞いた、聞いた」
幸村「魂の交換前に伊達領内までは逃げてたらしくて、俺が転生? したら米沢城で介抱されてた。まあ、西に逃げたらサタンの支配領域だからな」
政宗「じゃあ、話もわかったところで、私の紹介をしろ――と言いたいところだが、ろくなこと言いそうにないから、お前の世界にいたほうの伊達政宗だけでいい」
幸村「具体的に説明すると本のネタバレになるので、すごくやんわりと言う。ええと、学校でトラブルばっかり起こしてた不良が卒業式の時だけ泣き出して、『母校LOVE!』とか言い出したりすることってあるだろ?」
政宗「だろ? と言われても学校って概念がよくわからんが、そういう人間がいるのはなんとなくわかる」
幸村「伊達政宗の人生ってそういう不良にすごく近い」
政宗「つまり、問題児ってことだな」
幸村「いや、政宗って本気でトラブルメイカーでさ、詳細はネタバレ要素もあるし省略するけど、豊臣政権でも徳川の時代でも問題起こしまくってるんだよ。むしろ、よくお取りつぶしにならなかったなって気さえする。とくにひどいのは大坂の陣で味方の軍に鉄砲撃ちかけたやつ。あれで神保相茂(じんぼすけしげ)は戦死したからな」
政宗「味方撃ったのか。そいつ、どうかしてるだろう」
幸村「俺もそう思う」
政宗「まあ、戦国時代って母親に命狙われたり、父親を射殺したりする時代だからな。味方って程度で油断するほうも悪いよな。味方なら撃ってこないといつ判断した?」
幸村(この話題広げると面倒なことになるから無視しよう)
政宗「なあなあ、母親に命狙われてると思った時の人間の顔って、どんなのか見てみたくな――」
幸村「こんな感じで相当問題行動が多かったんだけど、晩年は徳川にきっちり臣従して親戚になろうとしたりして、割とべったりくっついてる。その距離感が不良とかヤンキー的なの。あと、派手好きなのもヤンキーと似てる。こういうのって年とってからも変わらなくて、晩年もトラブル起こしてる」
政宗「基本的に一切褒めてないな」
幸村「別にお前のことじゃないからいいだろ。いわゆる、『いい人』では絶対ない。でも、だからこその魅力みたいのもある。デカいことやりそうな雰囲気がずっとあるっていうか。ほら、どこの業界にもいるだろ。酒癖悪いけど、やたらと影響力ある人」
政宗「そうかな。こいつ、人間のクズなだけじゃないの?」
幸村「…………。やっぱり異世界のお前も性格は似てる気するわ」
政宗「おーい、屋代景頼(やしろかげより)、こいつ、調子乗ってるからあとで締めといて」
幸村「一巻で出てこない奴、呼ぶなや!」
「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。