裕時悠示×Yan-Yamが贈る、社畜とJKが繰り広げる年の差ラブコメ「29とJK ~業務命令で女子高生と付き合うハメになった~」。
11月に「29とJK2 ~大人はモテてもヒマがない~ 」も発売!
ガンガンGAにてコミカライズも決定!
と、話題満載な本作の重版がふたたび決定!
今回の重版に合わせて、新しいオビも制作!
評判も非常に高い本作、まだ読んでない方は、ぜひ読んでみてください!
■「29とJK」1巻試読版1
試読版第1弾では、ヒロインのJK花恋や、課金兵な妹、雛菜が登場。
■「29とJK」1巻試読版2
第2弾は主人公、鋭二の職場の後輩、渡良瀬が登場!
さらに2巻からいくつかシーンをピックアップ。
「……センター長に、体を要求されました……」
触れれば皮膚が貼りつきそうな、冷たい緊張感が場を支配する。
やはり、という気持ちとない交ぜになって、激しい怒りがこみ上げる。だがここで俺が憤慨しても始まらない。職場のセクハラ問題に直面した経験はこれが初めてなわけでもない。
感情を経験値でねじ伏せて、冷静な声を出す。
「辛いだろうが、話してくれるか」
渡良瀬は力なく頷いた。
「昨日は会社を終えた後、社用車で移動しました。村上さんが助手席、私とセンター長が後部座席へ。運転していたのは知らない年配の女性でした。おそらくセンター長の部下だと思いますが、女性がいたことで少し安心しました」
淡々と、感情をこめないように、注意しながら話しているのがわかる。
だが、次の言葉で崩壊した。
「八王子インター近くの信号で停車したときでした。それまで普通に世間話をしていたのに、センター長が、突然……私の、スカートの中に、手を入れてきて……」
うつむいた顔から大粒の涙があふれだし、チョコを拭いたナプキンにぽたぽたと落ちる。
「ニヤニヤ笑いながら『なんだ、穿いてるのか』って。こういう接待にはノーパンで来るのが常識だろって。『この保』の編集長は、そういうのが好きだからって。わ、わたし……こわくて。すごく怖くて。だけど声はでなくって、かたかた、ふるえるしかできなくて」
すっかり冷めたコーヒーの水面に、かすかな波が立っている。
自分の貧乏ゆすりが原因であると気づくのに、少し時間がかかった。
「『子供じゃないんだから』って。助手席で村上さんも笑ってて。『これから何をしにいくかくらい、わかってるでしょ』って。それから、センター長が言ったんです。『もしかして、処女か?』。そうしたら、村上さんも、運転手の女性まで、どっと笑って。わたし、もう耐えられなくなって ―車を降りて、逃げてしまいました」
「よくやった」
新しいナプキンを後輩に差し出した。
「逃げるのも勇気だ。よくやった。お前の判断は、間違ってない」
ずずっ、と鼻をすすりあげる音が響いた。
「逃げているとき、聞こえたんです。後ろから。センター長の声だったと思います。『使えない女だ』って、軽蔑するような声で。……一番つらかったのは、その言葉だったかもしれません」
渡良瀬は顔をあげ、真っ赤に充血した目を俺に向けた。
「セクハラされたことは悔しいです。みじめです。だけど、それ以上に疑問なんです。私は、社会人としての能力を買われて、入社試験に通ったんじゃないですか? 体しか価値がないみたいなこと、どうして言われなきゃいけないんですか? それとも……センター長が正しいんですか? 私の価値って、そんなものなんでしょうか?」
「そんなわけないだろう」
静かに首を振る。
「お前が補佐してくれるおかげで、俺の仕事がどれだけ助かっているか。八王子のみんながどれだけ助かっているか、言うまでもないことだ」
「…………うれしい」
切れ長の美しい瞳から、また涙があふれだす。
しばらくすすり泣く声は続いた。部下が泣き止むまでじっと待ちながら、これからの対策に思いをめぐらせる。
セクハラ被害にあった渡良瀬を鋭二は救うことができるのか!?
「ふうん。職場恋愛はめんどくさいもんね。別れたときなんて特にさー」
沙樹は数年前まで某大手出版社に勤めていた。そういうサラリーマンの機微は俺なんかよりわかってるはずだ。
ゆっくりと、二人で盃を傾ける。
「こないだ押し入れの整理してたらさ、槍羽クンのものと思しきTシャツ出てきたんだけど。返したほうがいい?」
「Tシャツ? どんな」
「なんかサイケなデザインで、SOS団っておっきく書いてあった」
…………。
「うん……まあ、お前のほうで処分してくれ」
今の俺に世界を大いに盛り上げているヒマはない。自分のことで精一杯だ。
「しかし、十年も前のシャツなんてよく取ってたな」
「引っ越したときあらかた処分したはずだったんだけど、他の荷物に紛れ込んでたのね」
沙樹は一度盃を置いた。
「今、そういうヒトはいないの?」
「あん?」
「部屋にTシャツを置き忘れるような相手」
肩と肩が触れ合う。
アルコールで濁った理性に、沙樹のやわらかさは毒だ。横から見ると、エプロンを半球状に盛り上げている形がよくわかる。あふれそうなくらいたっぷりとしたそれ。パッツリ張りつめたJKのそれと違って、わずかな接触だけで重たそうに揺れる。
肩と視線を、そっと沙樹から引きはがした。
「……いねえよ、そんなもん」
なっさけなー、と元カノは容赦がない。
「お前のほうはどうなんだよ」
「あたし? あたしは常時モテまくりだよー。……ま、でもそういう相手はもうずいぶんご無沙汰かなあ」
もう白い澱しか残ってない獺祭の瓶を、名残惜しそうに眺める沙樹。
「そもそもさ、今はモテてもヒマがないよね。お店毎日あるから」
それは同感だ。会社やら業務命令やらで、恋の入るスキマがない。
「中高生のときの自分が聞いたら張り倒したくなるだろうがな」
「そりゃ、あの頃はみんなモテたいモテたいで頭いっぱいだもん。男子も女子も。妙に異性の目を気にしてさ。常にアヒル口の女子とか、整髪料べったべたの男子とか」
「ああ、小室ファミリーのCD買うやつを馬鹿にしつつ、歌詞の意味もわからない洋楽をこれみよがしに口ずさんでみたりな」
「いや、それは槍羽クンだけでしょ」
あっ、手のひら返し。冷たい幼なじみだ。
「沙樹だってポケビだかブラビだかが解散するからとかいって、CD買ってーとかクラスで宣伝してたじゃねーか」
「ウリナリの? それ小学生のときじゃん。あたしが声かけたら男子みんな買ってくれたし。今でもビビアンを救ったのはあたしだと思ってるね!」
と、沙樹さんは誇らしげに顎を上げた。
どうも昔の話になると分が悪い。
「……ま、どこかに禁則事項の未来人(大)みたいな女がいたら紹介してくれや」
「あれ? 槍羽クンのお気に入りって主人公の妹じゃなかった?」
「ロゼッタといい、お前のなかで俺はどんな性癖なんだよ」
これじゃJKのこと話したら、ますますロリコン扱いされること請け合いだ。
元カノの幼なじみ、沙樹とは今も仲がいい。
「雛ちゃん、わたしの勝ちですね?」
「か、勝ちとか。別に勝負なんてしてねーし」
「雛ちゃんって呼ぶこと、許してくれますか?」
疑問形のくせに、笑顔のくせに、有無を言わせぬ迫力に満ちている。
「…………ぶ、ブリュレが美味しかったら、か、考えたげる」
苦渋に満ちた沈黙の後、雛は最後の抵抗を示す。
彼女はトートバッグの中から紙袋を取り出した。そこから差し出されたのは小さな白い器に入った見目麗しい黄金色のお菓子。パリッパリのカラメルにコーティングされたぷるっぷるのカスタード……こんなんまずいわけがない。見てるだけで口の中に卵の黄身の風味が広がる。バニラエッセンスの甘い香りのなかにかすかに混じるのはブランデーの匂いか? まさかそんな隠し味が?
「こ、こんなん、コンビニとかでも売ってるし。日本の一流企業が総力を挙げて開発したスイーツのほうが、おいしいに決まってるし」
言葉では抵抗を続ける我が妹だが、小さな鼻がひくひくしている。魅入られたようにスプーンを握る。ぱりんっ、かすかな音とともにカラメル層が割れて、とろ~り糸を引くようにクリームが持ち上げられ……早く食え雛。俺も食べたい。
バニラエッセンスのつぶつぶを含んだクリームが、雛の口へと運ばれる。
「………………ん、ん、ん」
「どうですか雛ちゃん? おいしいですか?」
雛は表情筋の一本たりとも動かすまいと、頬にぎゅっと力を入れる。だが、口元からゆるゆると力が抜けていく。スプーンをくわえたまま、棒付きキャンディーを舐めしゃぶるように、んま、んま、と唇が波を打つ。
「んま……んま、んま、んま……」
「んま?」
「んまあああああ! やだあああああ! 兄ちゃんはあたしのなんだからやだああああ!! んまあああああ! やだあああああ! んまぁぁぁぁぁぁ!!」
激しい自己矛盾からの感情崩壊を来たし、雛は立ち上がった。げしっ! と鋭いローキックを彼女の太ももに見舞い、その隙に残りのクレームブリュレをかっさらって自分の部屋へと逃げ込んでしまった。……俺の分は!?
「うーん、もうひと押し、ふた押しくらいかなあ……」
太ももをさすりながら、彼女は苦笑いする。まったくめげてない。むしろ次で落とせると言わんばかりだ。
手強い……。
我が妹ですら、このていたらく。
俺はこのJKの猛攻撃をかわしきることができるのだろうか。
JK花恋の猛攻が妹の雛菜にまで!?
「29とJK」どうぞよろしくお願いします!