20160328date_elf_masamune政宗「4月のGA文庫新作『伊達エルフ政宗』本編ではまだ登場しない全国の武将を地域別にいくつかピックアップして紹介していくぞ」

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「今回は近畿編です」

131地図

separate

■筒井ガーゴイル順慶(本拠:大和筒井城 奈良県大和郡山市)

 ガーゴイルはとくに大和、現在の奈良県に多い。これは奈良県に古い寺社が多いことによるものだ。かつて、神社の狛犬や寺院の仁王像の代わりにガーゴイルを置いて門番とすることが広く行われていた。狛犬はよく見ると小さな突起物が頭に生えているが、これはガーゴイルの角の名残である。かつてはガーゴイルのようなコウモリじみた羽も生えていたという。
 ガーゴイルは石のようにぴたりと体を止めておくことが得意で、もし火事などが起きた際でも生きているのですぐに逃げ出せる。大きな寺社ではガーゴイルを雇ってこの仕事をさせていた。
 やがて、ガーゴイルの一部は大和の大勢力、興福寺に連なる武装集団となるが、その一つが筒井氏の先祖であり、戦後乱世に筒井氏を継ぐ者として順慶(じゅんけい)も生まれた。
 さて、順慶がまだ幼い娘だった時のこと。家老を含めた定例の会議が当主、順昭(じゅんしょう)の元で行われていた。
 そこにつかつかと順慶が入ってきた。
 小さな子供が入ってきたことで、数人が思わず笑い出した。緊張感のある空気がゆるむ。
「おい、ここはお前にはまだ早い」
 当主も笑いながら言った。
 だが、順慶本人はにこりともせず、当主の前に行き、そしてこう言った。
「もう出ていっていいよ。父様の代わりはもう終わり」
 実は大和一国の支配権をほぼ確立した英傑、筒井順昭は三十歳にも満たずに病死していたのだ。その代わりを似た顔の影武者が行うことで、どうにか筒井氏は保っていった。
 その代わりはもういらないと幼い順慶は言ったのだ。至極、真面目な顔で。
 こうして影武者は出ていくことになり、順慶が当主となった。
 順慶は幼心に父親がなぜ死んだのかを知っている。
 ――あれはガーゴイルの病だ。
 一部のガーゴイルは石化能力を上手く機能させられず、大人になると体が硬くなって死んでいくのだ。これは遺伝することも多いから、おそらく自分もそう長くは生きられぬだろう。早熟の順慶はそんなこともだいたいわかっていた。

 ――せめて、その前に父様が目指していた大和一国の支配を。
 順慶は自分から戦国の動乱に飛びこむことを決めた。

separate
■六角サトゥロス義賢(本拠:近江観音寺城 滋賀県近江八幡市)

 安土城のすぐ近くに観音寺城という別の山城があるのは比較的よく知られている。
 この観音寺城がサトゥロスの大名、六角氏の居城である。早い段階から石垣が使われ、安土城のモデルにもなったと言われている。
 六角氏は元々佐々木氏の出のはずだが、サトゥロスと混血したようだ。そして、ほかのサトゥロスと比べて角が複雑で六本もあったことから、六角という苗字を使用しだしたらしい。
 今でもサトゥロスはお祭り好きで無責任な性格の者が多いと言われる。それは六角氏でも同様だったようで、ピンチになると、すぐに甲賀(こうか)の森に潜伏して、ほとぼりが冷めると戻ってくるのである。
 サタンこと織田信長が攻めてきた時も同じ作戦を使ったが、この時は復帰のチャンスがなくて、そのまま没落してしまった。まあ、居城のそばに安土城を造られては六角氏も立つ瀬がないと言えよう。
 ちなみに近江商人の根拠地はこのあたりである。サトゥロスは贅沢好きで派手好きが多いので、彼ら向けに商売人が集まってきたというのが真相だろう。当時の首都である京からもかなり近いし、いろいろなものが流通したに違いない。

separate

20160328date_elf_shoei

「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。

 

   

20160328date_elf_masamune政宗「4月のGA文庫新作『伊達エルフ政宗』本編ではまだ登場しない全国の武将を地域別にいくつかピックアップして紹介していくぞ」

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「今回は山陰・山陽編です」

 

 

 

 

130地図

separate■毛利ウンディーネ元就(本拠地:安芸吉田郡山城 広島県安芸高田市吉田町)

 その日、毛利元就(もうりもとなり)は三人の娘を集めて話をした。
「はい、ここに三本の長い麺がある。たったの三本でも長ければ意外とお好み焼きの具としてインパクトが出る。このようにお前たち三人が力を合わせて――って聞いてないな」
 長女の毛利隆元(たかもと)だけ聞いていて、吉川元春(きっかわもとはる)も小早川隆景(こばやかわたかかげ)も興味なさそうである。
「いや、まあ、吉川家の当主なんで。もぐもぐ」
「同じく、小早川の当主ですもので」
 元春と隆景が「毛利家のことは勝手にやってください」的な態度で言った。
「ああ、やっぱり、やっぱりです……。この二人は私をバカにしてるんです……」
 急に隆元が声を荒らげた。
「どうせ私なんて、お母様がいないと何もできない、ただのおりこうなだけの奴だって舐めてるんです! いっつもこうです! 全然仲良くできる気がしません!」
「隆元、落ち着け……。お前が思ってるほど嫌われたりしてないから……」
「じゃあ、この場で二人に聞いてみてください!」
「あっ、好きでも嫌いでもないんで。もぐもぐ」
「いやあ、姉さんはいつも姉さんですねえ(半笑い)」
 たしかにあまり尊敬とかはしてる感じじゃなかった。
「もう、いいです! 私は隠居します!」
「隠居って誰が跡継ぐの!?」
 そして隆元も被害妄想気味なのだった。
「私は継がないからな。もぐ、がつがつ」
「あと、元春、なんでずっと弁当食べてるの!?」
「ゆっくり噛んで食べるというのが吉川家ルールなんで」
「せめて食べてきてよ!」
「ああ、水の精霊ウンディーネらしく水のあるところに帰りたいですねえ」
「隆景もはっきり帰りたいって言うな!」
「このあと村上マーフォーク水軍と約束あるんです」
「ガチで帰る気だ!」
 ぱっと見、相当もめている毛利一門だったが、いざという時にはそれなりに結束して、大大名に成長した。

separate
■大内ケンタウロス義隆(本拠地:山口 山口県山口市)

「義隆(よしたか)様、なぜ私を討たなかったのですか」
 重臣、陶隆房(すえたかふさ)は追い詰めた主君の前に出てきて問うた。もう、義隆を殺せば謀反は完遂となるはずだった。
「あら、あなたこそ、どうしてすぐにわかるように謀反を計画したのかしら?」
 殺される前なのに義隆は平然としていた。一方、隆房は言葉に詰まる。
 史上最も奇妙な謀反だった。ずいぶんと前から義隆のところに反乱計画は漏れている。それを義隆も知っている。反乱を起こす側も漏れていると知っているのにすぐに事を起こさなかった。
「私もあなたも女、どのみち一緒にはなれない身よ」
 勇猛なケンタウロスである大内氏は何度も京都の政権を支え、長く京都に居座ることすらあったが、そのせいか義隆は文人気質が強かった。とくに尼子のミノタウロスに大敗してからは戦争をまったく考えなくなった。
 一方で、陶は武勇をひたすら誇りにして生きてきた一族だ。隆房は遠ざけられることに怒りも覚えただろう。
 ただ、それだけではこの奇妙な謀反の説明にはならない。 
「最初から私に殺させるつもりだったのですね」
「前の戦争であまりに人を殺してしまったわ。その罪も償わないと」
「あなたが死ねば、大内の大帝国が滅びます」
「次の当主候補ぐらいは考えているんでしょう? もちろん傀儡でしょうけれど」
 事ここに至っても、主従の関係は歴然としていた。義隆はわがままな主君として振る舞い続ける。
「隆房、簒奪者になればいいわ。きっと、あなたの政権も長続きはしないでしょうけど。さあ、あなたは誰に殺されるのかしら」
 呪いのように、義隆は言った。
 その瞳の奥は今から入る闇へと続いているように、深く黒い。
「では、いずれ、そこに参りましょう」
「ええ、あまり待たせないでね」
 最期に大内義隆はにっこりと笑った。

separate
■尼子ミノタウロス経久(本拠:出雲 月山富田(がっさんとだ)城 島根県安来市)

 ――鳥取県と島根県がどっちがどっちかわからない。
 関東などでよく聞かれる言葉である。まあ、西のほうでも群馬県と栃木県を逆に覚えている人も多いらしいから似たものかもしれないが。
 ただ、この鳥取と島根の順序問題は犯人がいるのだ。
 一代で山陰の大君主となった尼子経久(あまごつねひさ)である。
 ミノタウロスの彼は出雲(現在の島根県)の月山富田城を中心に、伯耆(ほうき)や因幡(いなば)(ともに現在の鳥取県)まで続くほどの巨大な迷宮を築き、敵が攻略できないようにした。
 もともとミノタウロスはギリシア神話の中でも迷路の中に住んでいたと書かれているように、迷宮好きの種族であるから、こういう謀略を使ったのも当然かもしれない。
 このため、一度尼子領国に入りこんだ敵は自分の居場所もわからぬままに攻撃を受けることになる。尼子氏は経久・晴久(はるひさ)と二代にわたって、この要害を利用して、敵を打ち破った。たとえば攻め入ってきたケンタウロスの大内軍を撃破している。逆に言うと、この迷宮から出ていくと脆さも露呈したようで、ウンディーネの安芸の毛利元就を攻撃して手痛く敗北している。
 なお、鳥取県では牛骨ラーメンの文化があるが、これは一説にはミノタウロスに支配された民衆が長らく牛に憤りを覚えており、明治維新とともに牛を食べる風習が入ると真っ先に牛を煮込んだことによるものと言われている。

separate
■宇喜多ノーム直家(本拠:備前岡山城 岡山市)

 もともと備前(現在の岡山県)はノームの守護大名赤松氏の家臣、浦上氏が支配していた。この土地から大幅に勢力を拡大し、ついには浦上氏も滅ぼしたのが宇喜多直家(うきたなおいえ)である。
 ノームは体の小さい種族であるため、軍事力では到底かなわない。
 彼は徹底した謀略でのし上がることに決めた。
 体が小さいということは様々な場所に潜りこめるということだ。宇喜多直家は毒殺、暗殺などの手段を繰り返して、勢力を伸ばした。よくすごい悪人のように言われる直家だが、ノームが生き残るには手段を選ぶしかないのだ。
 しかし、ちょうどその頃、織田と毛利の勢力が東西両側からやってきた。まだ家臣団も充分に組織できていなかった直家だが、ノームの総大将として、この窮地を上手く立ち回ることが求められたのだった。

20160328date_elf_shoei

「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

   

20160328date_elf_masamune政宗「4月のGA文庫新作『伊達エルフ政宗』本編ではまだ登場しない全国の武将を地域別にいくつかピックアップして紹介していくぞ」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「今回は四国編です」

 

 

 

 

 

129地図

separate
■三好リリス長慶(本拠地:四国 阿波)

 使い魔の地位は一言で言って極めて低い。
 もし、召喚者の魔女が不要と判断すれば消されてしまう運命にある。
 たとえば、魔女の細川晴元(ほそかわはるもと)は三好元長(みよしもとなが)というリリスが死ぬように仕向けた。その使い魔が独立して力を持ちすぎる恐れがあったからだ。
 魔女に罪の意識はない。使い魔をどうするかは自分が決めることだ。事実、そのリリスの娘だって逆らうことなく自分に仕えているではないか。
 ――逆に言えば、魔女の力が弱ければ、使い魔に見限られることになる。
 リリスの三好長慶(ながよし)は主人の晴元を追放した。
 長らく勇者の政権にかかわってきた魔女、細川家の本家は実質、それでついえた。自分の能力を把握できず、強力すぎる使い魔を使役した結果だった。
 その後、三好長慶は三人の妹とともに急速に力を伸ばし、勇者政権を支配する者とすら呼ばれるようになった。本拠地も四国から畿内のほうに移している。
 ある日、長慶は三人の妹と私的な小さな祝宴を開いた。
 彼女のほかに三好実休(じっきゅう)、安宅冬康(あたぎふゆやす)、十河一存(そごうかずまさ)と妹たちが並ぶ。ほかの家に入った者もいるが、いずれもリリスの三好政権を支える実力者たちだった。
「母さんの敵討ちも終わり、ようやく私たちリリスにも春が来たようですね」
 普段は真面目な長慶も妹たちの前では相好を崩す。無数の裏切りと血なまぐさい争いを彼女も経験してきた。
「あなたたち妹も、私の使い魔も優秀です。しばらくは平和が続くでしょう」
 しかし、安宅冬康が渋い顔をした。
「その使い魔ですが、松永久秀(まつながひさひで)というイフリートははずしたほうがいいかと」
 あいつを見ていると気分が悪くなると冬康は続けた。
「まさか、彼女はなかなか優秀な使い魔ですよ。よく働いてくれています」
 長慶は取り合わなかった。
 ――数年後、リリスの政権は松永久秀に奪われていくことになる。
 使い魔が手に入れた天下はまたその使い魔に拾われるのだ。

separate
■長宗我部バハムート元親(本拠地:土佐岡豊(おこう)城 高知県南国市)

古来から中国では皇帝を竜になぞらえる。天子の顔を竜顔(りゅうがん)と表現するのはその一例である。かつて竜――ドラゴン出身だった皇帝一族がいたことに由来するのは言うまでもない。
さて、四国の小さな国衆だった長宗我部(ちょうそかべ)氏には一つの始祖伝承がある。それは長宗我部氏の祖先は秦の始皇帝だというのである。それの証拠に長宗我部が苗字で本姓は秦氏であり、ドラゴンの一種であるバハムートではないか、ということになる。
もはや時代が流れすぎてその証明はできないが、自分は出世して皇帝のような人間になるという野望が元親(もとちか)にもあった。彼は長宗我部氏歴代の中では珍しく男だった。
戦国時代の土佐は長らく荒れていた。西の中村という土地に一条氏という公家上がりの大名がいて、大きな勢力を持っている以外は、中小勢力が各地にいる程度だった。元親の祖父もその戦争で殺され、土地も追われ、一時は一族滅亡の危機にも瀕した。元親の母親だった国親(くにちか)も幼い頃は一条氏に庇護されて、そこで育ったほどだ。
バハムート族は本性の巨大な竜の姿と人間の姿を使い分けることができる。この変身能力は男より女のほうが強い。そのため昔から長宗我部氏は代々、女性が家をついでいた。
だが、元親は男であるものの、武勇にすぐれていたため、母親によって一貫して女として育てられた。彼もとくにそれを拒みはしなかった。自分は皇帝になる、そのためにはまずは家督を継がなくてはならないと考えていたからだ。
そして、母親が長宗我部氏の勢力拡大中に死に、当主となった元親は急速に土佐の支配を進める。ついには大恩のある一条氏すら吸収してしまった。
一条氏の家臣に、バハムートは恩を恩と感じないのかと責められたことがある、その時、元親はこう言い返したという。
「一条の先祖はたかだか摂関家ではないですか。だが、ボクの家は皇帝でしょう。摂関家が皇帝の復活に力を尽くすのは当然というものです」
以後、元親は四国の統一を目指して、北に動き出す。

separate

20160328date_elf_shoei

「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。

   


20160328date_elf_masamune政宗
「今回から『伊達エルフ政宗』本編ではまだ登場しない全国の武将を地域別にいくつかピックアップして紹介していくぞ」

 

 

 

 


20160328date_elf_yuuto幸村「各武将のストーリーを抜粋といった体裁です。あくまで一部なので、各地方の武将ファンの方々には、広い心で見て頂ければ嬉しいです」

 

 

 

 

 

128地図

separate■竜造寺ドラゴニュート隆信(本拠地:佐賀城 佐賀市)

 生き延びたのは一族の数人だけだった。
 数え年十七歳の少年の胸の中ではまだ八歳の従妹が泣いている。彼女が泣いているから泣かずにすんだ。いや、少年は悲しんでいいのかすらわからなかった。
 信じられるわけがない。一族のほとんどが滅ぼされただなんて。
 しかも犯人は同じ少弐(しょうに)氏に仕える家臣たちだ。主君も同意したという。
 その日から彼、竜造寺隆信(りゅうぞうじたかのぶ)は一度も笑わなくなった。
 翌年、実行犯だけは生き延びた彼の曽祖父が仇を討ってくれた。だが老齢の曽祖父はその仕事を終えると、すぐに力尽きて、少年を竜造寺氏の後継者に指名し、こう言った。
「お前は英雄の器がある。きっと、ドラゴニュートを栄えさせてくれるだろう……」
 ドラゴニュート――漢字にすれば竜人。ドラゴンの角のような突起と、大きなドラゴンの羽が特徴の一族だ。伝説によればドラゴンの力を欲した人間が自分の娘をドラゴンの妻として差し出して生まれたというが、詳しいことはわからない。
 確かなのは竜造寺氏が代々、ドラゴニュートの一族だということだ。
 だから、人間の少弐氏や家臣から内心で恐れられていたのだ。
 数年後、元主君だった少弐氏を彼は滅ぼした。もう青年と言っていい歳になっていた。
 その時も彼は敵の城が落ちていくのを笑わずに見ていた。
「お疲れ様です、お義兄様」
 彼に声をかけてくれるのは最近、母親の再婚で義理の妹となった従妹の鍋島直茂(なべしまなおしげ)だ。生き延びた親同士の再婚だった。
 彼女もドラゴニュートで、ずっと竜造寺家に長らく仕えていた家柄だ。
「少しは楽しそうにしたほうがいいですよ、お義兄様。家中(かちゅう)が怖がっています」
 直茂にとって隆信は歳の離れた頼れるお兄ちゃんのようなものだった。だから、今の隆信が本来の隆信からはずれてしまっていることも知っている。
「もう、遅いよ」
 直茂の前で苦笑する時ぐらいは笑ってもいいかと隆信は思う。
「竜造寺は――ドラゴニュートは恐れられる存在だ。人間もほかの種族もドラゴンを恐れているんだ。もし力が弱いと見られれば主君にも命を狙われる。敵にも家中にも怖がられている間だけボクらは生きていける。ボクはできうる限り怖い男になる。敵も、信用できない味方も、恩人も、殺して得になるなら殺してやる」
 そして、何か予期したように、彼はこう付け足した。
「多分、ろくな死に方はできないだろうけど、その時は直茂が跡を継いでくれ。人から憎まれる部分はボクが全部引き受けるから」
「縁起でもないことを言わないでください!」
 怒られるのはわかっていた。でも、しょうがない。
「ボクが弱音を吐けるのはもう直茂しかいないんだ」
 うかつに気を許せばつけこまれる。数年前の悲劇がもう一度起こる。
 そうしたら直茂だって殺される。
 直茂は押し黙ったまま、隆信の顔を見ていた。隆信もその顔を見返すだけで何も言わない。もう言葉にするべきことはすべて言った。
 やがて、直茂は満面の笑みで、
「承知しました、お義兄様」
 と言った。どうにか隆信の気持ちはわった――はずだ。
「たしかにお義兄様の代わりができるのは私しかいませんからね」
「あと、その義兄様というのはやめてくれ」
「嫌です」
 隆信と比べ物にならないほど、直茂はやさしく元気に笑った。

separate

■大友セイレーン宗麟(居城:臼杵城 大分県臼杵市)
 今日も楽しそうに彼女は寝転がりながら歌を歌っている。
 大友家の当主、義鎮(よししげ)である。
 おそらく九州で最も高貴な人物の一人なのに、そんなふうには見えない。
「ふふふ~ん、ふふふ~ん」
 彼女が大友家の当主だった。セイレーンらしく鳥のような羽が背中から生えているが、寝転ぶのに邪魔だから閉じている。
 そこに屋敷内であるにもかかわらず、低空飛行をして近づいてくる女がいた。
 彼女は足が悪く、歩くのが苦手で、もっぱら飛んで移動する。
 そして、当主義鎮の前まで行くと、
「はい、だらけすぎなのでアウト。おしおきが必要ですね」
 バチン! バチン! バアァァン!
 作業のように、淡々と、しかし容赦はなく、尻を叩き出した。
「痛い! 痛いって! ベッキー、やめてよー!」
「ベッキーと呼ばないでください。戸次鑑連(べっきあきつら)なんですから、ちゃんと鑑連と呼んでください」
「わかったから、叩くのやめて! 私すごく偉いんだよ! それとも、ベッキーにそういう趣味が――ってまた威力上がった! 通告なしにパワーアップしないでよ!」
 ようやく、おしおきが終わった。
 すると、すぐに義鎮はけろっとしている。反省という発想がない。
「あ、そうだ、鑑連、私、出家しようかと思うんだよねー」
 鑑連はどうせ僧侶の名前って響きがかっこいいからとか、そんな理由だろうと思った。
「ほら、お坊さんの名前ってなんか響きがかっこいいでしょー?」
「勝手にしてください。仕事してください」
 大友氏の本拠だった府内(ふない)は海沿いにあった大都市だ(この時点では彼女は臼杵に引っ越しているが、こっちの周囲はほぼ完全に海)。セイレーンである彼女たちは歌で京に向かう船や海外との貿易船を無理矢理自分の領地に引きこんで商売をしていた。最近、南蛮船とかいうのも歌のせいで来るようになって、ますます儲かっている。
「それでお坊さんネームだけど、セイレーンだけに大友清蓮(せいれん)ってどう?」
「安直すぎます。あと、セイレーンと言うたびにあなたを呼び捨てにしてる感があって、言いづらいです。却下ですね」
「じゃあ……セイレーンからちょっと響きを変えて……宗麟(そうりん)はどう?」
「なんで鱗(うろこ)なんて字なんですか?」
「魚おいしいから」
「理由がアホっぽいですが、縁起悪い字ではないですしね。許可します」
 なぜか家臣の許可が必要になってることに本人は気づいてなかった。
「じゃあさ、ベッキーもそれっぽい名前つけてよ。鑑連って名前、ダサいしー」
 鑑連はパアァァンと義鎮の顔を叩いた。軽く義鎮は吹き飛んだ。
「失礼ですね。蹴りますよ」
「叩くのは通告ナシなんだ……」
「黙っててください。名前を考えますから。あまり義鎮様の声を聞くと頭が悪くなります」
「宗麟って決めたから、そう呼んでよー」
「黙れ」
 鑑連は一応真面目に考えた末、
「道雪(どうせつ)にします」
 と言った。
「う~ん、なんかシンプルすぎない?」
「私の名前なんだから宗麟様に拒否権はないです。それぐらい考えたらわかるでしょう」
「そっか……」
「とにかく、宗麟様はもっと真面目にしてくださいね。でないと立花鑑載(たちばなあきとし)のような重臣だって見限って裏切りかねませんからね。私が宗麟様を叩いてるのも周囲のウサを晴らして、お父上のように殺されないようにするためなんです」
「はははー、まさか鑑載が裏切るわけないよー。あいつが裏切ったら海に十五分潜ってあげる」
 そのあと、立花鑑載が裏切り、これを平定した道雪は立花家を継いだ。

separate

■島津ホムンクルス義久(本拠地:内城 鹿児島市)
「よし……。失敗はない。不足はない。行けるはず……」

 屋敷の地下室で島津義久(よしひさ)は小さくうなずいた。
 そこはもともと水牢として使われていた。だが、今の彼女にとって、それは大切な培養槽(プール)だった。
「南蛮人から言われたとおりにしたからね、あとは髪の毛を入れるだけ……」
 長く赤い毛を抜いて、一本ずつ、合計三本入れた。
 すると、目を背けたくなるような強い光が起こった。
 そして、その培養槽から義久そっくりの少女たちが姿を現す。
 一糸まとわぬ姿で同じ顔が三人並んだ。義久を加えれば同じ顔が四人だ。
「できた、できたわ! ホムンクルス製作に成功したのよ!」
 勝利の拳を振り上げ、そのまま近くにいたほうから名前をつける。
「あなたは義弘(よしひろ)、あなたは歳久(としひさ)、あなたは家久(いえひさ)!」
「「「いえす、まい・ますたー」」」
 ホムンクルスたちは声を合わせた。
「あ~、ちょっと禁断の秘術っぽいから、もうちょっと自然体のほうがいいわね。私が長女で、あなたたちは妹。四姉妹だったという設定でいくわ」
「「「いえす、まい・しすたー」」」
「あんま変わってない気がするけど、まあ、いいわ。いい? あなたたちは私の代わりに戦場を駆け巡るの。私はできるだけ遠くに行きたくないの。だらけたいの。だいたいパパの代から急に勢力拡大しちゃったけど、こんなの私の手に負えないわよ……。いい? 長女である私と島津家のために戦いなさい! 足が折れようと、腕が千切れようと戦いなさい! 私はその間、桜島でも見ながらぼうっとしてるから!」
「「「わたしたちのしんぞうをささげます」」」
「よくぞ、言った! じゃあ、服持ってくるわね。待っててね!」
 義久は地下室を出ていって、そこで待っていた父親に激烈に怒られた。
 しかし、すでに三人のホムンクルスは生まれてしまったのだ。

separate

20160328date_elf_shoei

「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。

   

20160328date_elf_masamune政宗「作者が八王子市在住なので北条はまあまあ思いいれが深いぞ(八王子は北条氏照の八王子城がある)。なので、多分北条も強く書くんだろう」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「そういう地縁、影響するんだ……」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「八王子城の心霊スポットを気づかずに夕方にぱしゃぱしゃ撮影してたらしいが、何も写ってなかったらしい」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「まあ、写ってたら書きづらいよな……」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「北条氏直(ほうじょううじなお)は私の同盟者だ。本当にいろいろとお世話になった。お中元に米沢牛を送ろう」

 

 

 

 

 

20160328date_houjou_sashie

 

20160328date_elf_masamune政宗「サキュバスはもちろん全員女だからな。氏直も女なんですか? みたいな質問はさせんからな」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「先に予防線張ってきた!」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「まあ、家臣にはたくさんインキュバスもいるし、関東を順調に支配している」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「すごく風紀乱れてそう……」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「北条は伊達にとってなくてはならない大名だ。人間の精を奪うという点で、アルラウネの佐竹義重とかぶっているので、佐竹を攻撃してくれる」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村(サキュバスに支配されてる関東って、けっこう大問題だよな……)

 

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「ただ、氏直は男性恐怖症らしくて、栄養は食事で補ってるらしいが、そのせいか、全体的に病弱だ。北条がつぶれると、伊達も危うくなるので、もうちょっと健康に気をつかってほしい。お前のいた世界だと、氏直はどうなのだ?」

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「一言で言うと、不幸な人だな……。豊臣秀吉に負けて高野山に追放されるし、そのあと病死するし……。江戸時代も一族が小大名ながら存続したことが救いかな……。なんか、こう、運の悪い人っているんだよな……。そのタイミングで当主になってもどうしようもないでしょって人……。武田勝頼とか今川氏真とか……」

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「お前の世界で武田が滅んだのは上杉景勝を助けたからだと思う」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「なんか急に真面目な話になってきたな……。武田の話をする場じゃないから北条に話を戻そう」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「そういえばサキュバスって昔は関東にいなかったんだけどな。あいつら、どこから来たんだ」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「北条氏の初代の伊勢宗瑞(いせそうずい)、いわゆる北条早雲(ほうじょうそううん)は室町幕府の高級官僚だった伊勢氏の血筋だ。その点は本にも出てくるので詳しくは割愛する」

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「サキュバスが高級官僚だった幕府ってまずくないか」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「俺の世界だとサキュバスじゃないから責任は持てん……。あと、サキュバス自体は不真面目な種族じゃないから仕事はちゃんとしてたんだと思う。使いとして行った時に氏直と会ったことあるけどいい奴だったぞ」

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「なんか、お前、氏直の肩持つな」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「別にそんなことないけど……」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_masamune政宗「お前、氏直と何かあったんじゃないだろうな……」

 

 

 

 

 

20160328date_elf_yuuto幸村「な、何もないから……」

※幸村と氏直の関係については「伊達エルフ政宗」本編をご参照ください。

 

 

 

20160328date_elf_shoei

「伊達エルフ政宗」、どうぞよろしくお願いします。