こんにちは、アズラエルです。
ぼっちヒロインがチョロ可愛いと評判の魔術アクション「召喚学園の魔術史学(マギストリ)」、いよいよ第2巻が発売されます!



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朝木野晃路が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。そして、ベッドの脇にはなぜか超ブラコンの妹・まつる――!?
「今日から兄様も、ここで暮らすことになりますので」
「なんでッ!?」
そんなこんなで、チョロ菱さんこと魔術探偵の遊形花菱と共に魔人の行方を探すはずが、妹の兄欠乏症とやらを癒すために延々つきあわされることになった晃路。さらには、図書委員会の管理する《幻影書架》から消えた魔導書《万物の書》を捜すミッションまで降ってきて、停学明け早々に大わらわ!? 絶好調の魔術アクションストーリーをお楽しみください!
そして、今回、なんとイラスト担当のさんた茉莉先生が、pixivにデスクトップ壁紙を描き下ろしてくださいました! まずは、こちら! ちょっとシリアスなロリバ……学園長先生が素敵ですね!
さらには、こちらも! 探偵モードの花菱さんが凛々しいわね!
ちなみに、ゲーマーズさんで本作を購入するとお風呂あがりのまつるちゃんのオリジナルブロマイドがプレゼントされます! こちらは、なくなり次第配布終了になってしまうので、欲しい人は早めにお店へGO!

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そんなわけで、7月刊の「召喚学園の魔術史学(マギストリ)2」を、どうぞよろしくお願いいたします!

中野は「中華そば 青葉」が好き、サトです。
7月の新作、森田陽一先生×しらび先生が贈る異能アクションストーリー「中野キッドナップ・カンパニー」



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こちらの各キャラのシーン紹介企画。
2回目はヒロインの少女、六根雫(りくねしずく)。
彼女は、主人公である斜たちの“誘拐屋”に狙われます。

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その異能は【ビーズ】として「人の欲望」を見ることができる能力。
そして、その欲望を暴走させることもできてしまいます。
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■第4章より/“誘拐屋”柚木春と互いに質問をする雫
「学校の成績はどのくらい?」
「普通ぐらい。悪くはない、多分。じゃあ、質問するね。春は会社勤めとかじゃないの?」
「違う、と言っておきましょう」
「斜は雇ってるわけじゃないの?」
「――この質問は二連続だけど、特別に答えるわ。斜には給料も払ってないし、ただ手伝ってもらってるだけ。まぁ、なんだろ? 居候なのかな、あいつは」
「ふぅん」
「じゃあ、私の質問。ときどき、手を振るのは何?」
「…………」
「別にパスしてもいいよ」
 もし、雫がパスをしたのならば、それはそれでやりようはある。だから、問題はない。
「――いや、答えるよ。斜には説明したし。信じてもらえないだろうけど、ウチはこうすると、人の欲望みたいなものが分かるんだ」
「へぇ」

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 春は信じていない風――中学生が馬鹿を言っているな、という感じを装って相づちを打った。六根雫は兼崎の案件だし、彼女がそういうことができてもおかしくはないということは分かっていた。それに、昨日、斜からも同様の報告が上がっている。
「次はウチの質問だっけ? そんなに聞きたいこともないけど――春は日本人?」
「国籍も生まれも日本。アメリカ人と日本人のハーフ。まぁ、私はアメリカってグアムしか行ったことないんだけどね。じゃあ、次の質問。さっきの続き。私は何を欲しているの?」
 春はテーブルの上で頬杖をついた。
「――ウチが本当に人の欲しいものが分かるか、確かめたいわけね」
 雫が挑戦的な笑みを浮かべる。
「まぁ、そういうこと」
「じゃあ、質問変えてもいい? 人間って、同時に色々なものを欲しがってるから、ただ欲しいもの当ててもあんまり説得力ないんだよね」
「いいわよ」
「じゃあ。今、この周りにある店のメニューから一つ食べたいものを選んで。ウチがそれを当ててあげるよ」
 春は首を動かして、周りの店を見る。フードコートには十数軒の飲食店がある。
(うーん。ご飯食べたばっかりだし、あんま食べたいものもないけど……あれにするか)
「決めたよ」
 春が伝えると、雫がさっと二回手を振った。そして、小さく笑った。
「別にフェイント仕込まなくてもいいのに――レストランのお刺身の定食でしょ」
「…………正解」
 春は驚きを隠せなかった。フェイントを仕込んだというところまで完全に正解だった。春は視線や自分から発せられるその他の情報で雫が正解を類推できないよう、あえて、ここからは見えないフードコートの店ではないレストランのメニューを選んだ。そして、雫はそれを当てたのだ――間違いなく、彼女の能力は本物だ。何より驚異なのは、正確すぎることだ。彼女のそれは、なんとなくそんな感じがする、レベルではなく、ほとんど言語に近い正確さで情報を読み取れるようだ。
「じゃあ、次はウチの質問だね。斜はなんで学校に行ってないの?」
 雫が少し得意げに聞いた。
「パス――というより、斜のことは彼の許可なしには答えられない。答えられることもあるけど。だからほかの質問にして」
「分かった。…………春は彼氏いるの?」
「すごいところに質問飛んだね。彼氏はいない。次の質問は――その欲望ってのはどのくらいのことが分かるの? 範囲というか。質問が曖昧でごめんね」
「割となんでも分かるよ。その人が抱いた感想とかは分からないけど、したいとか欲しいって感情なら大抵。人の考えの五割ぐらいは分かる感じなのかな? よく分からないけど」
 予想以上だった。春は軽く自分がいつも考えていることを思い出してみる。そして、大抵の思考は欲望や欲求といったものに繋がっているのではないか、と思った。今のこの思考だって、雫の能力の範囲を知りたいという、ある意味、欲望だ。一体、どこまでが欲望で、どこまでが感想に分類されるのかは見当も付かない。
「次はウチの質問だね。春は斜とはどういう関係なの?」
「――私が保護者ね、で、彼には仕事を手伝ってもらっている。そういう関係。血縁とかはないわ。まぁ、色々あって彼の面倒を見ることになった。色々の内容はやっぱり言えない」
(随分と斜に関する質問が多いな――一緒にいた時間が長いからか? それとも、何かほかに気になる理由でもあるのか?)
 春は今の考えを悟らせないよう、再度コーヒーに口を付ける。――もっとも、雫が人の望みを分かるというのなら、こんな行動を取ったところで、考えはバレているかも知れないが。
「……じゃあ、次は私ね。クラスのあれ、どうやったの?」
 これこそが聞きたかったことだ。あの状況を作り出したのは十中八九この少女だろう。だからこその依頼だ。兼崎は六根雫を野放しにできないから〝誘拐屋〟に人攫いを頼んだのだ。
「――」
 雫は黙ったまま何も言わない。しかし、話す気がないわけではないだろう。言いたくないのならば、パスをすればいい。パスはルールとして設定し、春自身行使してみせた。
「…………ウチは特に何かをしたわけじゃないんだよ。ただ、教えてあげただけなんだ。本当の望みっていうのかな? 人生の目標みたいなものを」
 春は、よく分からなかったので黙っている。多分、雫の方も分からないだろうな、という気持ちで言ったのだろう。
「なんかね、人の周りには小さい球――さっき当てた食欲みたいなのが分かる球が浮いてるんだ。ウチはそれを【ビーズ】って呼んでるんだけど。で、そのほかにも人を覆うぐらい大きい【ビーズ】があるんだ、色がほとんどなくて目をこらさないと見えないんだけど。その大きい【ビーズ】――ウチは【到達のビーズ】って呼んでるんだけど、それは、その人の人生の目標みたいなものなんだよ。これは人間にしかないんだけどね。動物は小さい【ビーズ】しか持ってなくて、虫とかには【ビーズ】すらないんだけど」
「雫は【到達のビーズ】の内容を教えてあげたわけね」
 だが、それでは、クラスに人がいない理由を説明できない。
「そう。その人生の目標はさ、自分では絶対に気付けないものらしいのよ。見て見ぬ振りをしているっていうか。やっぱ、色々あるじゃん。夢とか希望を諦めなきゃいけない理由って」
 春は、中学生のうちから諦めなきゃいけない夢なんてあるのだろうか? と一瞬思ったが、実際問題、中学生だって、数年先には高校受験が控えていて、その三年後には大学受験が待っている。自由に夢を追いかけられるような立場ではないのかも知れない。それに、学生時代、教室には夢を追いかけるのは馬鹿らしいという雰囲気が蔓延していたのを、春は覚えている。妙に達観しているというか、しらけているというか、そういうムードが思春期の教室にはあった。そして、その考えに同調しなければならないような空気も。
「で、ウチがそれを教えてあげると、その人はもう……それしか見えなくなっちゃう」
 雫は顔の前で両手を立て前後に振る――視野が狭いということを表すジェスチャーをした。
「へぇ……でもさ、それを――あの人数にどうやって教えたの?」
「そのニュアンスはちょっと違う。みんながウチに聞きにきたんだよ、お金を払ってね。一応、占いって形で。最初の何人かには無料で教えてあげて、口コミが広がったあとは一回、二千円で教えてあげた。聞かなかったのも二人ぐらいいて、聞いたあとも普通に生活してるのもいたけどね――それは、普通に生活して勉強することが人生の目標だったからなんだけど」
「……クラスメイトは知りたがっていたの? それを? 最初の一人だけなら理解できるけど、それ以降の人間が聞きたがる理由が分からないんだけど? おかしくなるんでしょ?」
「そりゃあ、みんな、夢は諦めたくないよ。最初はがんばる人を馬鹿にしたとしても、最終的には自分もそうなりたいと思うんじゃない? 無料で三人ぐらいに教えてからは早かったね」
「……そうかもね」
 だが、春にはどうも、それだけではないような気がした。もっと別の力が働いたと思われた。どうにも、その状況は――作為的だ。
 春はそのあと、雫に対する質問を普段の生活に関することなど、差し障りのないものに変えた。この少女が人生の目標とやらを聞きたくない人間にまで教えるとは思えないが――もし、彼女がそれを悪用したら危険すぎる。喋るだけで人を無力化できるなど、警戒のしようがない。
(まったく……困ったものね)
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雫は【ビーズ】の能力のため、様々な組織に狙われます。
それを守ることになった斜は、彼女を救えるのか!?

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新作「中野キッドナップ・カンパニー」をどうぞよろしくお願いします!

7月刊行予定で告知させていただいておりました
逢空万太先生の『ヴァルキリーワークス2』ですが、
製作上の都合で、8月の刊行となりました。


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楽しみにしていてくださった皆様には大変申し訳ございませんが
もう少しだけ、お待ち下さい!
なお、アニメイトさんでは特製の別カバー仕様の限定版が、
虎の穴さんとゲーマーズさんでお買い上げの方には
限定のショートストーリーブックレット(店舗で内容が違います!)
をプレゼント予定なので、こちらもお楽しみに~!

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 こんにちは、アズラエルです。
 間もなく発売予定の海空りく先生による新シリーズ「落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)」。その試読版・後編を公開しました!



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 今回は主人公・黒鉄一輝の妹、珠雫(しずく)やクラスメイトたちが登場! 妹ちゃんの強烈なアタックに克目せよ!
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 「落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)」は、7月15日頃に発売予定です。よろしくお願いいたします!

阿佐谷は「博多鉄なべ餃子なかよし」が好き、サトです。
7月の新作、森田陽一先生×しらび先生が贈る異能アクションストーリー「中野キッドナップ・カンパニー」



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こちらの発売前情報として、各キャラのシーンを何回かに分けて紹介させて頂ければと思います。
まず1回目は主人公の少年、深草斜(ふかくさななめ)。
彼は非合法の人捜し、人さらいを行う“誘拐屋”で仕事をしている少年。

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その異能は【間合い】を統べるという能力。
■プロローグより/雇い主の女性、柚木春とともに“誘拐屋”の仕事
 地下駐車場の静かな空間にエレベーターの扉が開く音だけが寂しく反響する。二人はエレベーターに乗って七階まで移動すると、廊下を迷いなく進み、七○八号室の前で止まった。
 春はポケットからメモを取り出し、それを見ると、斜に向かってうなずいた。
 それにあわせ、斜は一歩下がり、開いたドアの死角になるような位置に移動する。
 春は斜に向かって小さく手を振って合図すると、インターフォンのボタンを押した。
 数秒後、インターフォンが通じる。
『はい』
 スピーカーから聞こえてきたのは、あまり若くなさそうな男性の声だった。
「すいませーん、隣の家の者なんですけどー……、うちの猫がお宅のベランダの方に行っちゃって……ちょっと、取らせてもらってもよろしいですか? 申し訳ありませーん」
 春はインターフォンのカメラに向かって頭をぺこぺこ下げながら、さっきまでとはまったく違う、いかにも情けなさそうな声で言った。
『はぁ……』
 インターフォンの通話状態が終了し、辺りから通話時の微細なノイズが消えた。
 三十秒ほどで玄関のドアが解錠され、開かれる。
 ――それと同時に、死角に待機していた斜がドアノブを勢いよく引っ張った。ドアを開けた男性は、内側のドアノブを掴んだままだったからか、バランスを崩し、変な声を上げながら、マンションの共用廊下まで飛び出してきた。
 その男性は、自宅にいるというのに何故かスーツを着ていた。斜と春の今日の仕事内容から考えるに、彼はまだ着替えていないのではなく、来客があったので着替えるタイミングがなかった、と見るべきだろう。
 まんまと玄関のドアを開けさせることに成功した斜と春は、靴も脱がず、ずかずかと家の中に上がり、片っ端からドアを開け、部屋を確かめていく。
 マンションの共用廊下で立ちすくんでいたスーツの男も事態が異常なことにようやく気付いたのか、慌てた足取りで二人を追いかけ始める。だが、スーツの男が追いつく前に斜と春はターゲットのいる部屋――奥のリビングに到達した。
 その、取り繕ったかのような小綺麗さが鼻につくリビングには、制服を着た女子高生が一人いた。彼女は驚いた顔で、侵入してきた斜と春の方を見ている。だが、見ているだけで何か行動をする様子はない。きっと、状況に対応できず固まってしまっているのだろう。
「須山さんね」
 春が制服の女子高生に聞く。
「……はい」
 女子高生は怪訝そうにしながらも、春の質問に対し、肯定の返事をした。
「ご両親が心配しておられます。一緒に帰りましょう」
 春の言葉は字面こそ丁寧だったが、その口調は人を迎えにきた人間のものとは思えぬほど冷たかった。きっと、この言葉が提案でも依頼でもなく――命令だからだ。
 そして、女子高生も春の言葉で状況が把握できたようだ。――通っている高校の教師と恋愛関係になり、その教師の家に入り浸っていることを快く思わない両親が、この二人を寄越した、ということを理解したのだろう。
「な、なん、なんなんだお前ら!」
 スーツの男が後ろで声を張り上げる。
「今回は教え子に手を出したことに関しては目を瞑る――ってことになっている」
 もちろん条例違反だが、彼女の親からはそう言われていた。きっと、世間体を気にしての判断なのだろう。この方が彼女にとってもデメリットの少ない選択ではある。
 春はスーツのポケットから薄いコンパクトデジカメを取り出して、女子高生と教師の写真を一枚ずつ撮った。そして、女子高生の方に近づき「帰りましょう」と手を差し伸べた。
 その瞬間、女子高生はその手をはね除け、
「ふざけないで!」
 と、叫んだ。
「あぁ?」
 春はさっきまでの慇懃な態度を崩し、女子高生を威嚇するような声を出す。
「私の自由じゃない! 何か悪いことした!? 私が誰と一緒にいたっていいじゃない!」
「うっさい! こういう仕事なんだよ、こっちは! それに未成年者うんちゃらかんちゃらでダメだよ! ばーか、ばーか!」
 春は女子高生に手を伸ばし、胸ぐらを掴み上げると、強引に彼女を引き摺り始めた。女子高生も抵抗をしているようだが、春はそれをまったく意に介していない。
「ちょ、ちょっと乱暴すぎるよ、春! 依頼主の娘さんだよ!?」
 斜は急な展開についていけず、少し慌てながら言った。
「知るか。斜、私はな、ガキのくせに自由とか言うやつがムカつくんだよ、マジで。ジャンヌ・ダルクかよ?」
「ジャンヌ・ダルクって自由を求めた人じゃないよ。フランス革命と混ざってない?」
「うっさい! それにこの方が楽じゃん。私たちはこのガキの親じゃない」
「それでも、怪我させちゃったら問題だよ」
「しても擦り傷ぐらいだよ。問題なし」
 春がそう言いったときだ、
「やめろ!」
 スーツの男が叫んだ。彼の手にはいつの間にか包丁が握られている。多分、春と女子高生が言い争っているときに、キッチンから持ってきたのだろう。
「斜、出番だ」
「嫌だ」
「嫌だ、じゃない。訓練だと思って、がんばってどうにかしなさい」
「これが訓練?」
「そう。今は経験が重要よ」
「……了解」
 斜はしぶしぶ、スーツの教師の方を向くと、少し移動して、男との距離を取った。
「ふざけてんじゃねーっ!」
 男は大声を出す。多分、彼は侵入してきた斜と春が自分のことを無視して喋っているのが気に食わなかったのだろう。そもそも、不法侵入されたことに腹を立てているのかも知れないが。
「お前ら! その子を離せ! 俺は学生時代、空手をやっていたんだぞ!」
 男の声は裏返っていて、どうにも迫力に欠けていた。
「えっ、じゃあ、なんで包丁を持ってきたの?」
 斜は本当に分からなかったから聞いた。だが、その言葉が決定的となった。スーツの男を完全に怒らせたようだ。男は包丁を構え、斜に突っ込んでくる。どうやら、本当に刺す気のようだ。包丁を持つ手の力み具合も、動きの大きさも脅しのそれではない。
 だが、男の包丁はなんでもないところ――斜の少し前の空間で空振りしただけだった。さらにスーツの男は一人でバランスを崩し、よろめき、斜を通り越してしまった。男にとってもそれは予想外だったようで、彼はなんだか不思議そうな顔をしている。
「私はエレベーターの前で待ってる。そいつを片付けてから来てね」
「はいはい」
 斜はそう答えると、再度、男の方に向き直り、半歩ほど後ろに下がって【間合い】を取る。
 ――ここで、異変が起きた。
 スーツの男が動かないのだ。このままでは女子高生を攫われてしまうというのに――斜を突破し、春を追わなければならないというのに、固まったままなのだ。しかし、彼は戦意を喪失したわけではなさそうで、視線は依然鋭い。しかし、包丁を握り直したり、先程、自分が通った床をしきりに目で確認しているところを見ると、かなり戸惑っているようだ。
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「無理だよ」
 斜が言った。
「……?」
「そっちの攻撃は絶対に失敗するし、僕の攻撃は絶対成功する――感覚的に分かると思うけど。だから、やめてほしい。殴ったり、殴られたりってあんまり好きじゃないし」
 だが、そんなことを言われてやめる人間はいない。男は意を決したように包丁を構え、突進してきた。しかし、それはまたも空を切るだけで当たらない。
「だからさ、絶対無理なんだって、攻撃も防御も成功しない」
 斜はそう言うと、一歩下がって、再度【間合い】を取り直してから、男の前まで駆け寄り、男のあごに横なぎの拳を食らわせた。男は脳しんとうを起こしたのか、受け身もとらず倒れる。
 斜は男が立ち上がれないことを確認すると、その家を出て、エレベーターホールに向かった。
 エレベーターホールでは、へたり込んで泣いている女子高生を前にして、春が不遜な態度で仁王立ちしていた。
「春、何やってんのさ。彼女、すごい泣いちゃってるじゃん」
「こいつは勝手に泣いてるの。私は泣けなんて一言も言ってない」
「……あっそう。じゃあ、帰ろうか。この子を親御さんの元に送り届けないとね。あと、さっき聞かれた今日の夕飯のリクエスト、とんかつがいいな」
 斜はそう言うと、エレベーターの降りるのボタンを押した。
「斜はいつもとんかつだね。でも、今日は私が焼き肉を食べたいから却下」
「じゃあ、リクエスト聞かないでよ。っていうか、春はいつも焼き肉だね」
「うっさい」
 エレベーターが到着したので、斜と春は女子高生を中に入れつつ、ケージに乗る。
「……あんたたち、本当、一体なんなのよ……」
 ドアが閉まったところで、女子高生が目を腫らしながら、恨めしそうに聞いた。
「“誘拐屋”だ。攫ってきてほしいやつがいたら、攫ってきてやるよ。有料だけどね」
 春が女子高生の頭に手を乗せ、わしわしと乱暴に揺らしながら上機嫌に答えた。
 こうして“誘拐屋”――斜と春の六月の初仕事は、さっくりと、特に何事もなく終わった。
相手の攻撃を完全に無効化した、彼の【間合い】の能力は、いったい、どういうものなのか!?
次回はヒロインの幼女、……じゃなかった。少女の雫を紹介します!

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「中野キッドナップ・カンパニー」はアニメイトさん、コミックとらのあなさん、ゲーマーズさんで、それぞれ、しらび先生描き下ろしの特典も付きます! 詳しくはこちらで!
新作「中野キッドナップ・カンパニー」をどうぞよろしくお願いします!